1年でドコモを変えた男、ペレナラの朝に見た真のプロフェッショナルの極意
2021年05月13日 11:30
ラグビー
「毎回、バチバチにトレーニングをしているわけではないよ。日によってはヨガをしたり、ストレッチをしたり、軽めにパスをしたり、細かい部分の筋肉を伸ばしたりしているんだ」
これは試合当日の話ではない。毎日の練習にも、準備に2時間も費やしてグラウンドに立っているのだと知り、驚いた。「妥協」の二文字と勝ったり負けたりのいい勝負をしている一般人からすれば、真のプロフェッショナルの自制心は、仙人レベルに映る。気持ちに波が出ない秘けつはあるのか。そう聞くと、あのにこやかな顔が引き締まった。
「みんなモチベーションベースで物事を考えるけど、僕は一貫性と規律を大事にしているんだ。もし、やる気をベースに考えると、さぼりたい日も出てくるかもしれないけど、僕は選手生命は長くないと考えているし、一貫性と規律をとにかく重んじているので、さぼることはないよ。内容に強弱があったとしても」
隠れた努力は、小さい頃からの習慣だそうだ。13人制ラグビーの選手だったと伝わる父からは「一番努力した選手がいい選手になるんだ」と教えられ、その言葉を家訓のように忠実に守ってきた。信念をぶらさずに成長を続け、ワールドクラスの選手の地位を築いた。人間性も評価され、ハカのリーダーも任された。
「自分は昔、トッププレーヤーではなかったし、周りが寝ている間に早起きをして努力をする、というのを子どもの頃から続けているんだ」
ドコモのクラブハウス内での早出練習の内容は、関係者のみぞ知る世界だ。だが、グラウンドでは、我々メディアでも「一貫性」を感じることができた。今季、試合2日前がドコモの練習取材日だった。いつ訪れても、「TJ」の勤勉さは目立っていた。全体練習の最初にあるダッシュの1本目から全力疾走。ウォーミングアップだろうが、実戦形式だろうが、どんなプレーからでも「一生懸命さ」が伝わってきた。
全てのプロが、当たり前のことを当たり前にできるわけではない。だが、世界が認める「チームマン」は、日本での生活においても、輝かしい経歴にあぐらをかくことなく、笛が鳴ってもなお力を緩めずに走る選手だった。全体練習後は、仲間の特徴を頭に叩き込もうと、No・8、SO、WTBらをつかまえ、居残りで連携プレーを入念に確認していた。
ムラのない日常が、ムラのないプレーの生みの親だと感じている。チャンスとピンチをかぎ付ける優れたきゅう覚を備え、正確なパスとキックで攻撃を組み立てた。全9試合で大活躍。7トライを挙げた。毎年のように昇降格を繰り返していたチームを、過去最高の8強へ導いた。試合でも普段のフレンドリーな雰囲気のままで、味方もファンも敵までも、引き寄せられた。
今季でドコモを去るのはあまりに寂しい。古巣のハリケーンズ(ニュージーランド)ならびにニュージーランド協会と、23年までの契約をかわしたことが、10日に現地で発表された。たった1シーズンの来日だったが、残したものはとてつもなく大きい。
ドコモの日本選手は、神戸製鋼に0―97で敗れた昨季とそれほど大きく変わっていない。負けが染みついたチームに、―アッカーマンヘッドコーチの手腕も大きいが―、勝つために必要な取り組みと、自信を植え付けた。大きな戦力になっただけでなく、チームの空気までも変えてしまった。トップリーグ史に名を残す助っ人だと確信している。(記者コラム・倉世古 洋平)
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