白鵬 数々の大記録樹立の一方で 計り知れない功罪…「らしさ全開」の勝利が現役最後の取組に
2021年09月27日 17:49
相撲
01年初場所でデビューするまで、師匠は食べさせて太らせることに専念。新弟子検査は1メートル80、80キロでクリアした。色が白く、大鵬に似ていることから、しこ名は「白鵬」に決まった。
モンゴル相撲の経験もなかったためデビュー場所は3勝4敗と負け越し。稽古場では負け続け、ぶつかり稽古を40分以上続けた日もあった。悔し泣きは毎日だったが父ムンフバトさんの顔に泥を塗りたくない一心で「帰る」とだけは言わなかった。
同じモンゴル出身の兄弟子・龍皇とは喧嘩寸前までエキサイトするなど激しい申し合いで切磋琢磨(せっさたくま)。四股、てっぽうなどの基礎を徹底するとともに双葉山や大鵬、貴ノ花らの映像で研究する熱心な姿勢も大きく成長させる糧となった。03年九州場所で東幕下9枚目で6勝をマーク。関取の定員が増えたこともあり、翌初場所で18歳9カ月で新十両昇進。十両は2場所で通過し、04年夏場所で新入幕。千秋楽に優勝目前だった北勝力を破り、母国の先輩・朝青龍の優勝をアシストした。その後は右四つの相撲に磨きをかけ大関候補となると06年夏場所で大関に昇進。口上は「全身全霊をかけて努力します」だった。
07年2月には紗代子夫人と結婚。3月の春場所には朝青龍と決定戦を制し、夏場所も全勝優勝。場所後にモンゴル出身として2人目の横綱に昇進。「横綱の地位を汚さぬよう、精神一到を貫き、相撲道に精進いたします」が口上だった。土俵入りは宮城野部屋を再興した吉葉山と同じ不知火型を選んだ。
初土俵で1メートル80、80キロだった体格は横綱昇進時は1メートル92、155キロにまで成長。懐が深く、スケールの大きな四つ相撲を磨き、10年初場所後に朝青龍が引退後は「1強時代」を築き上げた。同年には双葉山の69連勝に迫る勢いで勝ちまくったが、同年九州場所2日目、稀勢の里に連勝を63で止められ「これが負けか」の明言を残した。
15年初場所で大鵬の33回を抜いて歴代最多優勝を更新。17年名古屋場所で、歴代1位の1048勝目に到達した。これといったライバルも現れず、角界の記録を次々と更新。自身の取組はもちろん、過去のビデオもチェックするなど探究心も旺盛で、双葉山が得意とした奥義「後の先」を追求した。
1人横綱時代の重圧にも負けず、力士会の会長として東西奔走。東日本大震災の被災地では土俵入りを行い、各地に土俵を寄贈するなど大相撲普及にも貢献した。だが強さを誇示する半面、土俵内外では物議を醸す言動も少なくなかった。懸賞金を受け取る際にわしづかみにして拾い上げたり、アレンジを加えた土俵入りの所作なども親方衆、好角家の批判を浴びた。格下相手に「猫だまし」を繰り出し、立ち合いでは張り手の乱発。一向に止まないダメ押し、プロレスのエルボー攻撃まがいの荒々しいかち上げなど、横綱らしからぬ取り口も問題視され、理事会に呼ばれて注意されることも1、2度ではなかった。
17年九州場所11日目の嘉風戦。立ち合いで「待った」をアピールし棒立ちになったが、認められず土俵の外に押し出され敗れた。納得がいかない白鵬土俵下から片手をあげて「抗議」。なかなか土俵に戻らない態度が波紋を呼んだ。その場所の千秋楽の優勝インタビューでは日馬富士の暴行事件を謝罪する傍らで、自ら音頭を取っての万歳三唱。19年春場所でも平成最後の本場所を締める意味で神送りの儀式の前に観客と三本締めを行った。そういった行動は「相撲道の伝統と秩序を損なう行為」と判断された。
今夏行われた東京五輪・パラリンピックでは土俵入りを熱望。その実現をモチベーションに土俵に上がり続けた。膝のケガも克服し、五輪直前の名古屋場所ではエルボーのようなかち上げからボクシングのような相撲で照ノ富士を下し全勝V。勝利の瞬間、派手に腕を振り上げガッツポースするなど横審、協会から猛批判された「らしさ全開」の勝利が現役最後の取組となった。
歴代最多45度の優勝。全勝は16回。史上最多となる通算1187勝、横綱899勝など…。数々の大記録を樹立した大横綱の功罪は計り知れないものがある。
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