大谷 歴史的一球、知ったのは試合後 163キロにも「手応えなかった」
2016年06月06日 07:25
野球
二刀流がついに日本最速を叩き出した。日本ハムの大谷翔平投手(21)が5日、巨人戦に「5番・投手」で出場し、4回にプロ野球の歴代最速となる163キロをマークした。1死満塁でクルーズに対して投げた4球目で、結果はファウルだった。08年に巨人・クルーンが記録し、大谷も過去に数度マークしていた162キロを更新。2失点完投で4勝目を挙げ、打っても1安打1打点で勝利に貢献した。
歴史的な一球だと、主人公は知らなかった。2点リードの4回1死満塁、打席にクルーズを迎えてマウンドの大谷は一気にギアを上げた。反撃ムードで盛り上がる巨人ファンのボルテージは最高潮。そんな中で大谷は1ボール2ストライクからの4球目、こん身の直球を投げ込んだ。「投げた瞬間、ど真ん中だったので、持っていかれるかと思った」。バックネットを直撃するファウルとなったが、自己記録を1キロ更新するプロ野球最速163キロを叩き出した。
しかし、球場全体が巨人の大応援に揺れていたため、大谷が知ったのは試合後だった。「それまでも160キロが出ていたので、球場がざわついても分からなかった。試合が終わってから“163キロが出た”と聞いた。ファウルだったので手応えもなかった。本当は空振りを取れていたらよかったけれど…」。この日だけで160キロ超えを6球も記録したが気にするそぶりもなく振り返った。
大谷は言った。「真ん中にいってもファウルを取れるように保険をかけている」と。初回に大田に先頭打者アーチを浴びた直球は141キロ。序盤は意識して球速を抑えたが、得点圏に走者を背負うと力を入れた。その差は20キロ。だから勝負どころで失投しても、打者が打ち損じる可能性は高くなるという計算だ。4回のクルーズは続く5球目のカーブでタイミングを外して三ゴロ併殺に仕留めた。今季2度目の完投勝利で自身3連勝。4勝目を手にした。
「5番・投手」で出場した巨人戦で記録したことに運命を感じる。入団1年目、前代未聞の二刀流に批判的な意見も噴出したが、栗山監督に「こんな選手はいない」と大谷の育成法を後押ししたのが、巨人の長嶋茂雄終身名誉監督だった。小学生の頃には「投手は松坂」「打者は高橋由」に憧れた。その高橋由伸監督の前でプロ野球の歴史を塗り替えた。
剛速球の原点はその少年時代にある。母・加代子さんは元実業団のバドミントン選手で国体決勝でバルセロナ五輪日本代表の陣内貴美子と対戦したことがある。小学3年で野球を始めるまでの大谷は、母の見よう見まねでラケットを目いっぱい振り回していた。その頃から大谷の腕の振りは磨かれた。
岩手・花巻東時代。大谷は「163キロ」と書いた紙をウエートトレーニング場の天井に張っていた。豊かな資質とたゆまぬ努力で叩き出した163キロ。ついに目標をクリアした。次は何を見せてくれるのか。無限の可能性を秘めた21歳が、まだ誰も歩いたことがない道を切り開く。 (横市 勇)
▼日本ハム・大野(大谷について)球の強弱は任せている。フォークはワンバウンドになったが低めを意識していたし、質もよかった。
≪大谷の直球最速伝説≫
▽花巻東 高3だった12年7月19日、岩手大会準決勝の一関学院戦(岩手県営)。6回2死二、三塁で高校生史上初の160キロをマーク。
▽オールスター 14年7月19日の球宴第2戦(甲子園)。初回に全セの1番・鳥谷(阪神)への2球目に自身初の162キロを計測。5番・阿部(巨人)にも162キロ。
▽公式戦 14年10月5日の楽天とのシーズン最終戦(札幌ドーム)。初回に先頭・銀次への2球目、内角低めに162キロ。バットを折って二ゴロに打ち取った。この日は計4球が162キロだった。今年5月15日の西武戦(札幌ドーム)でもマーク。
▽オープン戦 16年3月2日の巨人戦(札幌ドーム)。4回2死で4番・ギャレットに対し、2球目に自己最速タイの162キロで空振り。
≪65年ぶり2人目≫大谷(日)が10奪三振完投で巨人戦初勝利。完投勝利は5月1日ロッテ戦以来通算9度目になるが、打席に立った試合では初めてだ。この日の打順は5番。2リーグ制後、クリーンアップに座り先発登板は、13年6月18日広島戦の自身以来延べ8人目。うち、勝利投手になったのは51年10月7日大洋戦の藤村富美男(神)以来65年ぶり2人目でパ初の快挙となった。また、藤村の無安打に対し大谷は1安打しておりクリーンアップ先発登板で勝利&安打は両リーグ初。さらに、2桁奪三振も大谷が初で、過去7人の中では52年5月8日大映戦の関根潤三(近鉄)と13年の自身が奪った4が最多だった。
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