柿は実った――DeNA初のクライマックスシリーズ進出
2016年09月27日 08:30
野球
「誰にも話を聞かれない所で会いたいんだ」
「じゃあ、ウチに来て下さいよ。ウチなら誰にも聞かれません」
三鷹市にある高田の自宅から調布市の中畑邸まで自転車で10分ほどの距離。庭になった柿を自転車のカゴに入れてやってきた高田はこう切り出した。
「外れ1位みたいで悪いんだけど…」
監督要請していた工藤公康(現ソフトバンク監督)との交渉が難航。決裂した場合は受けてくれないか、という打診である。
中畑にとって一度はやりたかった監督業。巨人時代、球場への送り迎えをしてもらったこともある先輩に頼まれて断れるはずがなかった。
高田は2日後、工藤との交渉を打ち切り、中畑に正式要請。細かい条件の話は一切ないまま、12月9日、絶好調男の監督就任が発表された。
「熱いぜ!!」をキャッチフレーズに掲げたキヨシ丸の船出。4年連続最下位のチームから村田修一(現巨人)がFA宣言して去るという厳しい戦力状況でも中畑は明るさを前面に押し出し、選手に「最後まで絶対に諦めない野球」を求めた。
アレックス・ラミレス(現監督)、中村紀洋らベテランの力を借りて急場をしのぎながら筒香嘉智、梶谷隆幸ら若手を重用。初年度の2012年は46勝85敗13分けで首位に41ゲーム差の最下位に沈んだ。
2013年は64勝79敗1分け、2014年は67勝75敗2分けでともに5位。苦しい戦いを続けながら若手は着実に力をつけてきた。
その代表格が筒香嘉智だ。故障が多く、わずか23試合出場、打率・216、1本塁打に終わった2013年。「このままじゃ終わってしまう。気づかせるには今しかない」。心を鬼にして鹿児島・奄美大島で行う秋季キャンプのメンバーから外した。
この荒療治が効いた。筒香は翌2014年、終盤4番に座り、打率・300、22本塁打、77打点。キャプテンに指名され、開幕から4番に座った2015年は打率・317、24本塁打、93打点と数字を伸ばし、侍ジャパンの4番を任されるまでになった。
今季は一段と破壊力を増し、9月26日現在、打率・326、43本塁打、108打点。本塁打と打点の2冠をひた走っている。初CS進出の最大の功労者である。
ほかにも11勝でチーム勝ち頭の山口俊は2014年のシーズン中、中畑が抑えから先発に転向させた投手。史上初となる新人年から2年連続30セーブを挙げた山崎康晃は周囲の反対を押し切って中畑がクローザーに指名した右腕だ。
高田の功績も見逃せない。外国人選手はなかなか当たらないが、ドラフトでは目覚ましい成果を挙げている。高田がGMになってから獲得した選手が現在これだけ1軍に定着している。
12年1位・白崎浩之、3位・井納翔一、6位・宮崎敏郎。13年4位・三上朋也、5位・関根大気。14年1位・山崎康晃、2位・石田健大、3位・倉本寿彦。15年1位・今永昇太、4位・戸柱恭孝…。
高田が素材を集め、中畑が骨組みをつくったチーム。昨年まで6、5、5、6位ながら、負けても負けても前を向く中畑イズムと球団の営業努力があいまって観客動員数は大幅に増えていった。
大勢のファンに見守られる中、徐々に力をつけていったチームが、ついに初のCS進出。中畑は昨オフ、続投要請を固辞して責任を取り、ユニホームを脱いだ。「あと1年やっていれば…」という声も聞こえてくるが、中畑はかぶりを振る。
「俺がやってきたことは間違ってなかったのかな。4年間監督をやらせてもらった球団に少しは恩返しできたかなと思ってる」
5年前、高田が持ってきた柿が大きな実を結んだ。それだけで十分なのである。=敬称略= (特別編集委員)
◆永瀬 郷太郎(ながせ・ごうたろう)1955年、岡山市生まれ。早大卒。東京の予備校に通っていた74年10月、冬期講習申し込みの列を離れて後楽園球場に走り、長嶋茂雄最後の雄姿に涙する。82年の巨人を皮切りにもっぱら野球担当。還暦を過ぎ、学生時代の仲間と「バンドやろうぜ」で盛り上がっている。
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