【内田雅也の追球】「不運」「敗戦」の後――2回KOの岩田、そして阪神へ

2019年08月05日 08:00

野球

【内田雅也の追球】「不運」「敗戦」の後――2回KOの岩田、そして阪神へ
初回1死一、二塁、メヒアに左越えに3ランを浴び、声を張り上げる岩田(撮影・坂田 高浩) Photo By スポニチ
 【セ・リーグ   阪神5―10広島 ( 2019年8月4日    マツダ )】 2回7失点で降板となった阪神・岩田稔が不運だったのは間違いない。
 1回裏1死一、二塁。鈴木誠也を得意のシュート(ツーシーム)で遊撃正面のゴロを打たせた。だが、糸原健斗が捕球する直前のバウンドが不規則に高く跳ね、左前へと抜けた。普通なら遊ゴロ併殺打で無失点のところが、先制点を失う適時打となった。

 しかし、問題はこの後だ。会沢翼にも適時打され、アレハンドロ・メヒアに特大3ランを浴びたのである。

 2回裏も1死から平凡な二ゴロをヤンハービス・ソラーテが一塁悪送球で生かした。またも不運で、その後3安打を許して2点の追加点を失った。

 「がっくりは野球に付き物だ。問題はその後だ」と監督として大リーグ歴代3位、2728勝のトニー・ラルーサが語っている。不運の後こそ踏ん張りどころなのだ。

 作家・伊集院静はその名も『不運と思うな。』(講談社)で<己を不運と考えた瞬間から、生きる力が停滞する>と書いている。松井秀喜や武豊が重傷を負っても「不運」と口にしない姿勢をたたえ、その理由を推し量っての言葉である。

 さらに<自分より若い人>に向けて書いている。<決して不運と思うなよ。もっと辛い人は世の中にゴマンといる。今、その苦しい時間が必ず君を成長させる>。

 プロ14年目、35歳の岩田には百も承知のことかもしれない。過去にも幾多の困難を乗り越えてきた。1型糖尿病と闘いながらの活躍で人びとを勇気づけてきた。糖尿病患者に対する慈善活動が評価され、2013年には球団から若林忠志賞を授与されている。岩田もまた「不運」とは決して口にしないだろう。

 ならば再び立ち上がれる。それはAクラス入りへ正念場を迎えているチームにも言えることだ。

 プロ棋士で名人にもなった米長邦雄の著書に『運を育てる――肝心なのは負けたあと』(祥伝社文庫)がある。副題にある通り、敗戦の後の姿勢を重要視している。

 一流の勝負哲学で<(幸運の)女神の判断基準は二つである。それ以外のことに彼女は目を向けない>と断言している。

 <一つは、いかなる局面においても「自分が絶対に正しい」と思ってはならない>と<謙虚>をあげる。内省的な選手の多い今の阪神にあって、謙虚さは大丈夫だろう。

 そして<もう一つは笑いがなければならない>。猛暑の中、長期ロードの旅に出て最初のカードで負け越した。辛い状況だが、明るく笑って前を向きたい。 =敬称略= (編集委員)

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