新型コロナに揺れるプロ野球界 小林至氏、4つの見解 藤浪ら現役選手感染の影響は――
2020年03月28日 05:30
野球
球団は原則、外出禁止ではなく自粛依頼という形しかできない。選手は雇用ではなく、契約だから、契約書に書いてないことを(強制は)難しい。選手会の了解も必要になるだろう。あくまで3選手の無事を祈っているが、若い人でも感染するということが、感染爆発を抑える段階でのメッセージになると思う。私は選手もフロントもやっていたが、トップアスリートは凄く激しい運動をするので、肉体的にも精神的にも凄く消耗する。練習後や試合後は免疫力がガクッと落ちてしまう。限界まで練習で追い込む若い選手、脂肪の少ない選手は特に。だから若い選手は風邪を引きやすいし、インフルエンザにもなりやすい。
《開幕の見通し》
開幕はゴールデンウイーク明けではないか。つい最近、早大の授業開始が連休明けへと更に延びた。他の大学も、同時期までは厳しい雰囲気。開幕日が決まったら、そこから(逆算して)1週間~10日間くらいオープン戦をして、というする形になるのでは。当初の五輪の中断期間3週間を使い、ダブルヘッダーを組み込んでいければ143試合は何とかなる。観客は、目いっぱい入れるのは、今シーズンはもう難しいという前提に立ったほうがいいだろう。前後左右(の席)を空けて3~4分の1程度、3万人収容の球場にせいぜい1万人といったところか。
今のプロ野球のビジネス構造としては、売り上げのうちチケット販売とグッズや飲食など、来場客による収入が半分くらい。ビジネスとしてはお客さんを入れるのが優先だが、フル稼働できる状況を待っていたら、シーズンは始められない。
今は世論に耳を傾けて、Jリーグとも連携してプロスポーツで足並みを揃えてやっている。世論を注視しながら、すり合わせていくのだろう。
《運営時の注意点》
参考になると思うのはWADA(世界反ドーピング機関)の手法だ。加盟競技団体の選手は、国際大会に出るようなレベルになると、24時間365日、全て行き先を明らかにしなければならない。これを本件に応用すれば、感染経路を押さえることができる。今日明日できることではないが、考えてもいいと思う。
それでも、シーズン中に感染が発覚することはあるだろう。当該選手は専門家の指示に従い欠場とするしかないだろうが、当該チームを丸ごとシャットダウンする必要はないと思う。専門家の意見はさまざまにあるが、感染していても、症状が出ていないケースがほとんど、というのは間違いなさそうだ。つまり、どのチームにも感染者はいるかもしれないが、それを突き止めて、欠場させることに意味がない。
WADA方式で、行き先が全てつかめているということであれば、世間も納得するだろう。専門家の定める発症の基準を頼りに、発症したら欠場とすることでやり繰りするしかない。“感染者が多数出ると野球にならない”と尻込みするより、やった方がいいと思う。
《原点に立ち返る》
人々が夢中になれる健全な娯楽は本当に必要だ。筋書きのないドラマが日々、演じられライブのスポーツコンテンツの威力は凄い。暇に耐えられずに、渋谷、原宿などの繁華街に繰り出している若者でも、5人に1人は家でおとなしくするようになるのではないか。
そう考えると、ビジネス的には痛いが、無観客試合も検討する段階に入ったかもしれない。「巣ごもり」せざるを得ないお茶の間にスポーツのライブコンテンツを届ける重要性は、かつてないほど高まっている。プロ野球は幸い、大きな企業グループに所属しているところがほとんど。そういう球団にとって、数十億円の興行赤字は端金だ。利益度外視の行動は、民間企業としてはつらい行動だが、ここは、社会におけるプロ野球の存在意義、という原点に返る時かもしれない。
◆小林 至(こばやし・いたる)1968年(昭43)1月30日生まれ、神奈川県出身の52歳。神奈川・多摩高から東大を経て92年、ロッテに入団。2年間で1軍登板はなく、引退後に米コロンビア大大学院で経営学修士を取得した。02年に江戸川大の助教授、06年に教授に就任。05~14年にソフトバンクの球団取締役を兼務した。
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