【内田雅也の猛虎監督列伝~<9>第9代・藤村富美男】大功労者の「ミスター」を襲った「排斥運動」
2020年04月28日 08:30
野球
正式に監督(選手兼任)となった56年は内紛の火種がくすぶるなかでのシーズンだった。
甲子園球場に照明設備が完成、初ナイターとなった5月12日巨人戦は観衆発表7万のなか、勝利で飾った。6月24日の広島戦(甲子園)は0―1の9回裏2死満塁で三塁ボックスにいた藤村は自ら「代打」を告げ、史上2人目の代打満塁逆転サヨナラ本塁打を放った。
チーム内の不穏な空気に球団は何かと手を打った。首位にいた8月20日は東京から大阪への移動で初めて飛行機を使った。球団は大阪・梅田新道の「ヘンリー」で選手全員にフルコースディナーを振る舞った。2位が確定した後の9月30日、広島戦(広島)の試合後には宮島口「一茶苑」で慰労会を開いた。奥井成一は<内紛を解消するための考えもあったのではないか>と記す。監督と選手の間で腐心した球団代表・田中義一はシーズン終了直後、病床に伏した。
火種はオフに燃えさかった。選手が球団に監督退陣を要求した「藤村排斥運動」である。11月2日、大映監督に就任した元監督・松木謙治郎が来阪。「祝う会」に集まった主将金田正泰、真田重蔵、田宮謙次郎、白坂長栄、小山正明、吉田義男らから批判が噴出した。
マネジャー青木一三は大阪・京町堀の金田宅にこの「絶対にクビにできない13人」を集めた。「排斥派」として連判状「藤村監督退陣要求書」を作成、オーナー・野田誠三に提出した。青木は著書『プロ野球どいつも、こいつも』(ブックマン社)で<デイリースポーツと報知新聞に流した>と両紙が11日付で報じ内紛は表面化した。
「選手の殊勲を監督の手柄にする」「打撃練習で長い時間打つ」など非難し「チームの明朗化」をスローガンに掲げた。
新聞報道に藤村は「騒ぐ選手は来季2軍に落とす」と言い、選手側が硬化する悪循環となった。
球団は入院中の田中に代わる新代表・戸沢一隆が事態収拾に動いた。「黒幕」として青木、「首謀者」として金田、真田を解雇し、火に油を注いだ。セ・リーグ会長の鈴木龍二は巨人の川上哲治、千葉茂に仲介を依頼。大阪入りした川上は金田に「やり方が違う」、藤村に「金田を帰してやれ」と勧めた。藤村は球団に金田復帰を進言。金田は再契約し、連判状撤回に応じた。収拾は年末12月30日。戸沢、藤村、金田が声明文を発表、握手を交わした。約50日に及ぶ内紛騒動だった。
<すべて円満解決したのである>と松木は著書『タイガースの生いたち』(恒文社)で書いた。プロ4年目、22歳の若手だった吉田は著書『牛若丸の履歴書』(日経ビジネス人文庫)で<あの騒動は一体何だったのだろうか><何を要求するのかいまひとつ理解できなかった>としている。
迎えた57年。藤村監督専任となった。最終成績は最後まで首位争いを演じ、優勝した巨人に1ゲーム差の2位だった。藤村は来季続投のつもりで秋のオープン戦に臨んでいた。11月24日、広島での「パ・セ交流ダイヤモンドシリーズ」で南海にサヨナラ勝ちした試合後だった。宿舎で藤村は戸沢に呼ばれた。新監督にカイザー田中義雄を迎えるという。藤村によると「もう一度現役で働くなら監督に田中氏を招くが、という話だった」。契約は11月末まであるので「発表は待ってほしい」という藤村を無視し、大阪に帰っていった。
翌25日、大阪・梅田の電鉄本社で戸沢は田中新監督を発表した。南萬満の『真虎伝』(新評論)によると同席した藤村は<顔は真っ赤になり、手はワナワナと震えた>。
青木は先の書で退団時<「来季中に藤村監督を解任してくれ」という要求を出した>と明かしている。南は功労者への失礼な球団姿勢を批判しながら<排斥騒ぎに対してのペナルティーを1年後にこんな形で科したということだった>と解説している。=敬称略=(編集委員)
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