【内田雅也の追球】失敗からの回復力

2021年02月05日 08:00

野球

【内田雅也の追球】失敗からの回復力
<阪神宜野座キャンプ>6回2死、小幡の遊ゴロをさばく遊撃手・中野(撮影・坂田 高浩) Photo By スポニチ
 【阪神・紅白戦   紅組3-3白組 ※特別ルール ( 2021年2月4日    宜野座 )】 何度も書いてきたことだが、野球は失敗のスポーツである。投攻守走すべてのプレーに多くのミスがつきまとう。そんな失敗とどう向き合うかが成功へのカギとなる。
 12球団トップを切り、4日に沖縄・宜野座であった阪神キャンプ紅白戦で見たのは、失敗から回復する選手の姿だった。それが新人選手だったことに感じ入った。

 ドラフト6位の内野手・中野拓夢(三菱自動車岡崎)は4回表、無死一塁の守りで遊撃正面のゴロを弾いた。完全な併殺コースの打球の失策で、2死無走者になるところを無死一、二塁とピンチが広がった。この回3失点の原因となった。

 投手に悪いし、自分の評価も下がると沈むところだろう。だがこの後、4回表、6回表の難ゴロをさばいてみせた。

 同4位の捕手・栄枝裕貴(立命大)は5回裏2死二塁で変化球のワンバウンドを横に弾き、二塁走者の三進を許した。記録は暴投だが、前に落としていれば防げる進塁だった。6回裏、同じ走者二塁で同じ低めワンバウンドを今度は前に落とし、離塁した二塁走者を好送球で刺してみせた。

 守備でミスした中野も栄枝もその前の打席では右前打、中越え二塁打を放っている。ただし、プラスとマイナスで帳尻が合うというような世界ではない。厳しいプロの競争社会なのだ。

 自ら提唱する「失敗学」の権威、東大名誉教授、畑村洋太郎は<「しまった」という気持ちが人を成長させる>と著書『回復力 失敗からの復活』(講談社現代新書)を書いている。失敗すれば誰でも「しまった」と動揺する。それほど人は弱い。窮地脱出には一時期流行った「鈍感力」を発揮し、<自分ができることをただ淡々とやり続ける>と助言している。

 後のゴロを平気でさばき、ワンバウンドを前に落とした彼らは回復する力を備えていたわけだ。

 「牛若丸」吉田義男も1年目1953(昭和28)年38個、2年目30個の失策を記録している。それでも遊撃手で使い続けた監督・松木謙治郎は<「人は失敗して覚える」が口癖で、失策してしょげる私に「もう一つエラーしてみろ」と言った>と著書『牛若丸の履歴書』(日経ビジネス人文庫)に記している。

 何も新人ばかりではない。ベテランだろうが失敗はする。問題は失敗を認めたうえで再起に向かう心構えだろう。 =敬称略= (編集委員)

おすすめテーマ

2021年02月05日のニュース

特集

野球のランキング

【楽天】オススメアイテム