【内田雅也の広角追球】歴史の一コマをいかに生きるか 甲子園球場の初日の出に永遠を思う
2022年01月01日 08:07
野球
今年は東の空に雲がかかっており、少しだけ遅くなった。2022(令和4)年1月1日、午前7時20分、あかね色に耀いていた三塁側アルプス席と左翼スタンドの間から日が見えた。一塁側内野スタンド、そして徐々にグラウンド上を照らしていく。マウンド上に立てられたしめ飾りが耀く。10分ほどかけて場内全体が明るくなっていく。澄みわたった新春の淑気(しゅくき)に包まれる。
その光景は毎年ほとんど変わらない。永遠を見る思いがする。終わりなき世のめでたさである。
十年一昔という。だが、プロ野球界の感覚からすれば3年たてば、もう昔である。メンバーはがらりと変わる。
最初に甲子園で御来光を拝んだ2013年、監督は就任2年目の和田豊だった。当時の選手で今も現役でいるのは新人だった藤浪晋太郎と秋山拓巳だけだ。野手は福留孝介が移籍、俊介が引退して1人もいない。
「オレたちがやっていることは、長いタイガースの歴史からすれば、ほんの一コマに過ぎん」と阪神監督当時、岡田彰布が話したのを覚えている。首位独走から逆転で巨人に優勝をさらわれ、辞任にいたる2008年のことだ。当時、岡田は監督5年目。短命な阪神監督にあって、異例の長期政権だという話に岡田は「そんなもん」と鼻で笑い「一コマ」だと言ったのだった。
阪神の球団創設は1935(昭和10)年12月。86年が過ぎた。長嶋茂雄の引退スピーチではないが、タイガースこそ「永久に不滅」なのだ。その永久や永遠を行き交う監督も選手も、役職員たちも小さな存在だというわけだ。
<私たち人間は小さな存在である>という五木寛之の『大河の一滴』(幻冬舎文庫)を思う。
<空から降った雨水は樹々(きぎ)の葉に注ぎ、一滴の露は森の湿った地面に落ちて吸いこまれる。そして地下の水脈は地上に出て小さな流れをつくる。やがて渓流は川となり、平野を抜けて大河に合流する>。
<その流れに身をあずけて海へと注ぐ大河の水の一滴が私たちの命だ>。
悠久の歴史からすればちっぽけな存在かもしれない。しかし、<それは小さな一滴の水の粒にしぎないが、大きな水の流れをかたちづくる一滴であり、永遠の時間に向かって動いていくリズムの一部なのだ>。一滴の命の尊さを思う。
むろん、阪神タイガースだけではない。高校野球は今年、春の選抜が94回大会、夏の選手権は104回大会を迎える。いや、野球界だけではない。永遠の命の物語は人間の、そして宇宙の物語でもある。
長引くコロナ禍で先の見えない世の中である。野球人はもちろん、すべての人びとの幸せを祈った。静けさのなか、忘れていた甲子園の大歓声が聞こえた気がした。 =敬称略= (編集委員)
◆内田 雅也(うちた・まさや) 1963(昭和38)年2月、和歌山市生まれ。桐蔭高―慶大から85年4月入社。アマチュア野球、近鉄、阪神担当からデスク、ニューヨーク支局、2003年編集委員(現職)。主に阪神を追うコラム『内田雅也の追球』は2月から16年目に入る。
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