【内田雅也の追球】下積み生きた「メドラー」手に汗握った阪神・長坂は間違いなく殊勲者

2022年05月22日 08:00

野球

【内田雅也の追球】下積み生きた「メドラー」手に汗握った阪神・長坂は間違いなく殊勲者
16年、矢野監督現役時代の背番号39を背に入団会見でポーズを決める長坂
 【セ・リーグ   阪神2-1巨人 ( 2022年5月21日    甲子園 )】 9回表、阪神捕手・長坂拳弥は右手で足もとの土を取ったり、捨てたりしていた。文字通り、手に汗握っていたのだ。タイムも2度取って、マウンドで話し合っていた。お立ち台で言った「めちゃめちゃしびれました」は本音だろう。
 クローザー岩崎優が先頭から3連打を浴び、1点差となり、なお無死一、二塁。ピンチをしのいだ勝利の瞬間、岩崎は長坂を指さした。リードへの感謝に見えた。

 間違いなく殊勲者である。4年ぶりとなる先発起用に応えた。8回まで巨人に二塁すら踏ませなかった。中島宏之に7球粘られながらカーブで、岡本和真には第1ストライクのスライダーで併殺に取った配球が光る。

 8回表には俊足の代走・増田大輝の二盗を刺した。強肩なのは知っていた。2018年の沖縄キャンプで二塁送球タイムを計測すると、梅野隆太郎に次いで速かった。

 加えて2回裏無死一、三塁ではセーフティースクイズを決めた。内角シュートだったが、バットの角度を作り、教科書通り一塁手に捕らせた。

 高崎健康福祉大(健大)高崎高から東北福祉大を経て、ドラフト7位指名で入団。6年目を迎える。昨年は初めて1軍出場がなかった。2軍でがんばり、ウエスタン・リーグ優勝時、2軍監督・平田勝男からMVPの1人とたたえられた。

 梅野の負傷離脱もあって巡ってきたチャンスである。前夜も7回から延長12回までマスクをかぶり、悔しい敗戦を味わった。得点機で2度空振り三振を喫していた。

 アメリカでは捕手のことを俗に「メドラー」と呼ぶ。「世話焼き」「おせっかい屋」という意味である。長坂は小学校から大学まで所属したチームすべてで主将を務めていたそうだ。長い下積みに耐えたことも肥やしとなっていよう。周囲に気配りのできる、いい意味でのメドラーなのだ。

 起用してくれた監督・矢野燿大は大学の先輩である。入団当初は引退した矢野の現役時代の背番号「39」を背負った。

 試合前に球団社長・百北幸司、5回終了時にオーナー・藤原崇起と出くわした。「手に汗握る試合を見たい」と話しあった。それが野球の醍醐味(だいごみ)だからだ。試合後、この原稿を書く際、汗ふきシートで手をぬぐった。=敬称略=(編集委員)

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