尚弥の見えないパンチ「想定以上のスピード&爆発力」“7回まで戦えた男”が証言した衝撃

2022年12月12日 04:30

格闘技

尚弥の見えないパンチ「想定以上のスピード&爆発力」“7回まで戦えた男”が証言した衝撃
20年10月、モロニー(左)に“見えないパンチ”を見舞う井上尚弥(トップランク社提供)  Photo By ゲッティ=共同
 【プロボクシング・世界バンタム級4団体王座統一戦   井上尚弥―ポール・バトラー ( 2022年12月13日    有明アリーナ )】 WBAスーパー&WBC&IBF統一世界バンタム級王者・井上尚弥(29=大橋)と20年10月に対戦した現WBC、WBO世界バンタム級1位のジェイソン・モロニー(31=オーストラリア)が本紙の単独インタビューに応じた。WBO同級王者ポール・バトラー(34=英国)を上回るとされるフットワークの持ち主は、井上相手に中盤まで持ちこたえながら2度倒されて7回KO負け。いかなる戦略で挑み、何が想定外だったのかを明かした。(杉浦大介通信員)
 ――今年は3戦3勝。自分の中で最も向上したと思う部分は。
 「1つをピンポイントで指摘することは簡単ではありません。毎試合で学び、全ての面で向上していると思います。次の段階に進み、世界タイトルを手にし、それを長く守るということが大きなモチベーションになっています。これまでエマヌエル・ロドリゲス、井上尚弥には敗れ、2度の機会をものにできませんでした。ただ、全ての試合で向上し、オールラウンドの面で優れた選手になれていると思います。スピード、スキル、パワーももちろんですが、経験、リングIQ、聡明さといった部分が大きいのでしょう。おかげでより上手に試合を運ぶことができていて、より完成された選手になれているという自負があります。3つの意味のある勝ちを手にし、良い年が過ごせたと思っています。今ではWBC、WBOでランキング1位。良い位置にいられているので、来年は重要な年、成功を手にする年になるのでしょう」

 ――WBCからドネアとの対戦指令(井上王座返上後の王座決定戦)が出たが、今後のプランは。
 「まずは井上対バトラー戦を待たねばなりません。井上は4団体統一王者になったらスーパーバンタム級に階級を上げると公言してきました。実際にそうするのかどうか。恐らく勝つでしょうし、彼が本当に4団体王座を返上したら、この階級で多くのチャンスが開けることになります。私はWBC、WBOの両方でランキング1位なので、来年の早い段階で王座決定戦の機会が手に入るはずです。特にもしドネアとの対戦が実現したら、私にとってドリーム・カム・トゥルー。とにかく、どんな形にせよチャンスが来るはずなので、今ではハードなトレーニングを積んでいます。夢である世界王座に向け、今度のチャンスを逃すつもりはありません。この階級でキングであり続けてきた井上が去った後、私がバンタム級を引き継ぐつもりです」

 ――ドネアのボクサーとしての印象は。
 「私はドネアにばく大な敬意を払っています。アマチュアの頃からドネアの試合を見るのが大好きでした。とてもエキサイティングで、きれいなスタイル。殿堂入りは確実で、とてつもないキャリアを築いてきました。特に軽量級では史上最高の選手の1人でしょう。それと同時に、ずっと対戦したいと思ってきた選手でもあります。井上との対戦を望んだのと同じく、私は最高の選手と戦いたいのです。“レジェンド”と呼びうる存在のドネアに勝てば、私のキャリアは次の段階に進むでしょう。単に世界王者になるだけでなく、偉大なボクサーとしても認められるはずです。そのためには、ただ勝つだけではなく、ドネアのように凄い選手に勝たなければいけないのです。数年前、何度かにわたってドネアとラスベガスでスパーリングをしたことがありました。良いセッションでしたし、その時からいつか戦うことになるんじゃないかと思っていました。実現したら最高に幸せです」

 ――既に王者級の実力はあると思うが、中でも最高の選手と戦いたいのか。
 「そのとおりです。このスポーツに身をささげてきました。最大の相手、最高の選手に挑み、ただ戦うだけでなく、彼らに勝つのが私の目標です。のちに振り返ったとき、誇りに思えるキャリアを過ごしたいのです。このスポーツにかけ、多くの犠牲を払ってきたからこそ、凄いことを成し遂げたい。周囲の人々をインスパイアし、家族、チームに誇りを感じさせたいのです。ビッグネーム相手のビッグファイトを組むことによってモチベーションをかきたてられます。自分自身で誇りに思えるキャリアを築いていきたいのです」

 ――井上が(6月に)ドネアを2回でKOしたことに驚かされたか。
 「少し驚きました。井上がどれだけ良い選手か、どれほど凄いパンチャーかは知っていました。その爆発的な攻撃力でこれまで多くの早いラウンドでのKO勝利を手にしており、だとすればそれほど驚く必要はないのかもしれません。もう少し競った試合を予想していましたが、そうならなかったとしても不思議はない。ドネアが全盛期を過ぎたからとかそういった理由ではなく、井上が凄い選手だからこそ起こった結果なのだと考えています」

 ――ドネアとの1、2戦の間で井上はどのようなアジャストメントを施したのか。
 「井上はより強いボクサーになったのだと思います。付け加えると、第1戦の2回に左フックを浴びた際、目を負傷し、以降は相手が二重に見えるようになったという話は既に語られています。ケガは井上のパフォーマンスに大きな影響を及ぼしたのでしょうし、それさえなければ第1戦でももっと早くドネアを仕留め、第2戦のような結果になっていたのかもしれません」

 ――ここではどう戦うかは話せないと思うが、ドネア戦のカギはどこにあると思うか。
 「おっしゃる通り、詳しくは話せないですが、私は前に出てエキサイティングな戦いをすることも、足を使って賢明にボクシングをすることもできます。自分らしく聡明な戦い方をするつもりです。ドネアはビッグパンチャーなので、無謀な戦い方をして強打を浴びるわけにはいきません。ドネアのことは尊敬していますが、今の彼は今の私ほどハングリーではないはず。私のハングリネスと決意は今の彼には大きすぎるものだと信じています」

 ――井上対バトラー戦の予想。展開、決着はどうなるか。
 「井上が勝つでしょう。バトラーも良い選手ですし、失礼なことを言うつもりはないですが、井上は別のレベルだと思っています。井上はこの試合に勝って統一王者になり、その後、スーパーバンタム級も制覇するでしょう。彼は特別な選手。バトラーは恐らく動き回り、打ち合いを避け、ビッグパンチをもらわないようにするはずです。だからすぐに決着はつかないかもしれませんが、それでも4、5、6回には井上がバトラーを捕まえるだろうと予想しています。井上にとってそれほど難しい戦いにはならない。繰り返しますが、バトラーも力のある選手ですが、井上ははるかに上です」

 ――井上の試合を見ていて、負けない要因をどう感じているか。何がそんなに凄いのか。
 「井上を見ていて感じるのは、彼が全てを備えた選手だということです。距離の測定に優れているので、パンチを当てるのは困難です。相手が打ちにかかっても、ステップバックでパンチが届かない位置に出てしまいます。逆に攻勢に出ると、相手が驚くほどの爆発的なパワー、スピードを備えたパンチで相手を打ちのめしてしまいます。とても賢明で、タイミングの良さ、スピード、パワーを全てハイレベルで備えています。パウンド・フォー・パウンドでもトップと目されるのも納得です」

 ――実際に試合をしてみての実感。何か想定外だったのか。勝敗を分けたポイントは。
 「スピードと爆発力は事前に想定していた以上でした。彼にパワーがあるのは誰もがご存知の通りですが、あれほどの速さでパンチが飛んでくるとは思いませんでした。私がダウンを喫した2発のパンチはどちらもとても速く、タイミングも良く、見えないパンチ。ボクサーなら誰もが理解しているとおり、“最も効くパンチ”とは“見えないパンチ”です。とてつもないパンチだと感じました」

 ――井上戦前の戦略は。どう分析し、どう戦って勝つ想定だったのか。
 「私の方が少し背が高いので、ロングレンジで戦った方が分がいいかなと考え、その戦い方を選択しました。ただ、さっきも話した通り、井上の距離感の良さには驚かされました。フットワークが良かったためになかなかパンチを当てることができませんでした。距離を詰め、プレッシャーをかけようとした時間帯もありましたが、それも十分ではなかったのでしょう。振り返ってみれば、私のフィジカルの強さを生かし、もっと前に出て重圧をかけることに徹すればよかったのかもしれません。相手の胸に自身の胸をつけるくらいの接近戦を挑み、手数を出し、疲れさせるような戦い方をすべきでした。ただ、そう戦った場合には被弾のリスクが大きくなり、あの破壊的な強打を浴びる可能性も高まっていたはずです。あの試合での自分のパフォーマンスには満足はしていませんが、井上は本当に偉大なボクサーなので、彼をほめる以外にありません」

 ――井上戦後、実際に自身のフィジカルの強さをより上手に生かしている印象がある。
 「あの試合から私は多くを学びました。自身の長所を信じ、子供の頃からオージー・フットボールをプレーすることで鍛えたフィットネスと馬力という武器をより生かして戦うようになったのです。私は最もナチュラルな才能に恵まれた選手ではないのかもしれませんが、経験とハードワークのおかげでより良い選手になれたと思います」

 ――来年の目標は。
 「まず世界王者になり、私の生涯の夢をかなえたいです。そして統一戦をこなし、私も4団体統一王者になり、バンタム級のキングとして認識されるようになりたいです」

 ◇ジェーソン・モロニー 1991年1月10日生まれ、オーストラリア・ビクトリア州出身の31歳。14年8月プロデビュー。18年5月に河野公平(ワタナベ)に6回TKO勝ち。18年10月にIBF世界バンタム級王者ロドリゲス(プエルトリコ)に判定負け。20年10月の井上戦が2度目の世界挑戦だった。プロ通算27戦25勝(19KO)2敗。身長1メートル65、リーチ1メートル70の右ボクサーファイター。双子の弟アンドリューは元WBA世界スーパーフライ級王者。

 ▽井上―モロニー戦VTR 20年10月31日、WBAスーパー&IBF統一王者の井上はWBA2位&IBF4位のモロニーと対戦。新型コロナウイルスの影響により約1年ぶりの試合で、米ラスベガスデビュー戦は無観客開催となった。序盤から上下に打ち分けるジャブで主導権を握ると、6回にカウンターの左でダウンを奪取。7回には相手のワンツーの合間を狙って打ち込む右ストレートで倒し、7回2分59秒KO勝ちした。

 ≪みんな“返上待ち”≫バンタム級は井上が4団体王座統一を進めており、上位の世界ランカーは強すぎる井上のスーパーバンタム級転向と王座返上を待っている。返上見込みの4王座を争うとみられるのがモロニー、ノニト・ドネア(フィリピン)、エマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)ら井上に敗れた選手たちで、モロニーは王座決定戦出場が確実。日本勢では井上拓真(大橋)がWBA2位につける。ドネアはWBCからモロニーとの対戦を指示されているが、WBCスーパーフライ級王者フアンフランシスコ・エストラーダ(メキシコ)戦にも興味を示している。

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