【新型スイフト試乗】新開発エンジンの完成度は高い。では先代継承ボディ&シャシーの乗り心地は?
2024年02月15日 16:00
左右の揺れは抑えられ安定感は高いが、リヤからの突き上げが気になる?
今だからこそ正直に話すと、発表前に催された事前取材会の際、撮影のために会場内をほんの少し、ゆっくり走っただけで、乗り心地は硬めのフィーリングだろうと予感はしていた。
とはいえ、事前取材の段階では公道を走ることを想定していないので、「タイヤ空気圧が工場出荷時のままなのかもしれない」と、自分に言い聞かせていた。ところが今回、千葉県木更津市内を拠点とした試乗会で公道を走ってみても印象は全く変わらず、乗り心地が明らかに先代モデルや先代「スポーツ」と比較しても硬い。特にリヤからの突き上げが強い。
これは、取材に同行した編集者とカメラマンも、同乗して走り出した瞬間、異口同音に「これは乗り心地が硬いなあ」と印象を語っていたので、決して気のせいではないだろう。
かように第一印象はお世辞にも靭やかな乗り心地とは言えなかったが、公道での走りの撮影が一段落したところで、今度は一人で試乗へ。その走りをつぶさにチェックすることにした。
まず問題の乗り心地に関しては、3人乗車から1人乗車になった後も劇的には変化せず、路面の凹凸の大小を問わず、突き上げを正直に乗員へと伝えてくる。テスト車両の走行距離は800km強と、まだまだ慣らし運転の途中というレベルだが、それを差し引いても決して褒められたものではない。
だが、じっくり観察すると、体感する突き上げの割には車体が前後上下左右に揺すられる量も躍度も大きくなく、視線のブレも、とりわけ乗り物酔いに直結しやすい左右の揺れは抑えられているのが見えてくる。
またハンドリングは、ロールの量・速度とも適度に抑えられているうえ、車重が先代より50kg重くなっているにも関わらず軽快で、腕のあるドライバーがスタビリティコントロールをカットした状態でサーキットなどを限界走行すれば、意図的にオーバーステアを起こしやすいコントロール性の良さを感じられる。だが安定性は決して低くなく、多少ラフな操作をした程度であれば挙動が破綻する傾向は見られなかった。
新開発エンジンはアクセル操作に対して忠実かつリニアに反応し「意のままに操る」ことができる
しかし、それよりも印象的だったのは、先代より一新されたパワートレインの扱いやすさだ。
新開発のZ12E型1197cc・ボア×ストローク=74.0×92.8mmの直列3気筒NA(自然吸気)エンジンは、従来のK12C型1242cc・ボア×ストローク=73.0×74.2mmの直列4気筒NAに対し、排気量は45cc、最高出力は67kW(91ps)/6000rpmから60kW(82ps)/5700rpm、最大トルクは118Nm/4400rpmから108Nm/4500rpmへとダウンしている。
ただしストローク/ボア比はK12Cの1.02から1.25へと大幅にロングストローク化。また3気筒化や高速燃焼化、高圧縮比化(12.5→13.0)などの燃費改善策により、燃焼効率とフリクションの面でも少なからず有利になっていると見てよいだろう。
一方でマイルドハイブリッド車用ISG(モーター機能付き発電機)の最大トルクが50Nmから60Nmへとアップし、CVTも現行ハスラー以降の各車に搭載されている副変速機なしのものをベースとして世代交代された。
そのためもあってか、発進時のトルク不足も、上り坂などで高回転域を使用した際のパワー不足も、マイルドハイブリッドのいかにもモーターアシストが効いている感も、CVTのラバーバンドフィールも、ほぼ皆無といっていいほど感じられない。アクセル操作に対して極めて忠実かつリニアに、車速を文字通り「意のままに操る」ことができる。
加えて、低回転域でゆったり流していると、エンジン音はほとんど聞こえず、さりとて荒れた路面に入ってもロードノイズや振動は目立たない。車内での声の通りも良く、静粛性は車格以上の高さと言って良さそうだ。ただしアイドリングストップが働かずに停車した際のアイドリング振動は大きく、そのギャップに少なからず驚かされた。
その後高速道路へと入り、やがてバッテリー残量が2セグメント以下になると、マイルドハイブリッドのモーターアシストが介入しなくなるが、それでもパワー不足は感じられない。また3気筒エンジンらしいサウンドは相応に聞こえてくるものの、音質は決して耳障りではないのも好印象だった。
また、速度が上がるにつれ、細部にわたる空力処理が効果的に働くのか、車体の抑えが効いて安定性が増すとともに、前述の突き上げの強さも幾分和らいでくる。
そして全車速追従機能・停止保持機能付きのアダプティブクルーズコントロール(ACC)を作動させてみると、先代スイフトのものと変わらず車間距離を取りすぎる傾向はあるものの、加減速の強さもタイミングも滑らかかつ適切なものに進化。
単眼カメラが一新され、レーザーレーダーがミリ波レーダーに変更されたことで検知範囲が拡大し、システムが刷新された新世代ADAS(先進運転支援システム)の恩恵を、明確に感じ取ることができる。
車線中央付近を走るよう操舵アシストする「車線維持支援機能」も、車線内の左右を行ったり来たりすることはなく、さりとて手の平に違和感を覚えるほど強く急激に操舵トルクが入ることもなく、至って自然かつ存在感を主張しない制御に終始していた。
プラットフォームは先代よりキャリーオーバー、各所に改良を加えているが…
さて、高速道路を降りようかという頃に、ふと疑問が湧いてきた。
突き上げが若干ながら弱まってきたのは、速度や空力の問題ではなく、タイヤが暖まってきたからではないかと。
そこで、最も乗り心地が悪く感じられた、試乗開始直後に通った郊外路へ戻り、もう一度同じように走ってみる。するとやはり、最初に通過した時よりも突き上げは多少なりともマイルドになっていた。だがしかし、それでオンザレールな走りへと激変するはずもなく、あくまで程度問題の話。根本的には変わらなかった。
新型スイフトはプラットフォームを先代よりキャリーオーバーしており、ボディ・シャシーの基本設計は大きく変わっていないものの、フルモデルチェンジした分だけ相応に各部へ変更が加えられている。サスペンションに関しては、バンプストッパーを長くたわみやすくしたほか、リヤサスペンションのストロークを増大させるなど、ハンドリングよりもむしろ乗り心地を改善するための方策が多い。
一方でボディは、フロアと骨格との結合部を中心に、減衰接着剤を多用しているのは大きなトピック。ダッシュパネルの板厚アップやフロアカーペットの目付アップなどでも、静粛性向上を図っている。
だが、減衰接着剤によって路面からの入力がボディで減衰されなくなり、乗員へ突き上げをダイレクトに伝えるようになったとすれば、体感する突き上げが強いにも関わらず車体の揺れが少なく視線もブレにくいことにも説明がつく。
しかし、筆者が最も危惧しているのは、新型スイフトの走りが何ら改善されることなく、このままモデルライフを終えることだ。実際、スズキがモデルライフ途中でメカニズムに劇的に手を加えることはむしろまれで、次の走りの進化をフルモデルチェンジまで待たされることは決して珍しくない。そしてそれが、スイフトに限らずスズキ車全般の大きな強みである、手に届きやすい価格の源泉の一つとなっていることは想像に難くない。
新開発のパワートレインやADASがすでに極めて高い完成度に仕上がっている一方、先代より基本設計を受け継いだボディ・シャシーは乗り心地の面でむしろ悪化した感さえある。
たとえそれが個体差あるいは走行距離が短く足回りに当たりがついていないことによるものだとしても、今度は生産品質あるいは製造公差の設定に課題があるということになってしまうため、それはそれで問題だ。
この乗り心地に関してだけ、大きな疑問を残していることが、余りにも惜しい。早急に対策が行われることを、心から願っている。
【新型スズキ・スイフト グレード構成・価格】
XG(CVT車・FF/4WD):172万7000円/189万2000円
ハイブリッドMX(5速MT車・FF):192万2800円
ハイブリッドMX(CVT車・FF/4WD):192万2800円/208万7800円
ハイブリッドMZ(CVT車・FF/4WD):216万7000円/233万3200円
■スズキ・スイフトハイブリッドMZ(FF) 全長×全幅×全高:3850×1695×1500mm ホイールベース:2450mm 車両重量:950kg エンジン形式:直列3気筒DOHC 総排気量:1197cc エンジン最高出力:60kW(82ps)/5700rpm エンジン最大トルク:108Nm/4500rpm モーター最高出力:2.3kW(3.1ps)/1100rpm モーター最大トルク:60Nm/100rpm トランスミッション:CVT サスペンション形式 前/後:マクファーソンストラット/トーションビーム ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ディスク タイヤサイズ:185/55R16 83V 乗車定員:5名 WLTCモード燃費:24.5km/L 市街地モード燃費:20.8km/L 郊外モード燃費:24.8km/L 高速道路モード燃費:26.3km/L 車両価格:216万7000円