【書く書くしかじか】栗東トレセン内に広がる引退馬支援の輪

2023年01月18日 10:00

競馬

 ▼日々トレセンや競馬場で取材を続ける記者がテーマを考え、自由に書く東西リレーコラム「書く書くしかじか」。今週は大阪本社の坂田高浩(38)が担当する。栗東トレセン内の引退馬支援の取り組みを知り、一般財団法人ホースコミュニティ事務局長の矢野孝市郎さん(48)に取材。人が引退馬とどう向き合うか、支援活動について考えた。
 栗東トレセン内で日々、現役競走馬を取材するなかで考えさせられることがあった。加用厩舎の前田功士厩務員から引退馬支援の活動を聞いたときだ。同厩務員は引退馬が入院馬房に入ると、日頃の厩舎業務に支障がない時間帯に、ボランティアで寝わらを上げたり水替えをしている。去勢手術を行う前後の通常1週間ほど。乗馬クラブなど次のステージに向かうまで、朝と夕方の1日2回、厩舎の垣根を越えて約30人が登録するグループLINEを通し、無理なく分担している。前田厩務員は「入院馬房に入るときなので不定期ですけど、去年はちょくちょくありました。小さい力が集まれば大きいことができるので」と引退馬のために何かできないか?との思いで協力している。

 矢野さんは、グループLINEで引退馬の情報を伝え、分担を呼びかけている。引退馬支援の団体を立ち上げた角居勝彦元調教師と一緒に、17年にトレセン内での活動を始め、エアソミュールやフルーキーなどを送り出し、その後も厩舎スタッフの力を借りながら続けている。乗馬クラブに送り出すためにほぼ必ず必要なのが去勢手術。発情期になると人がコントロールしきれず、危害を加えかねないからだ。ただコスト面が厳しい現実として立ちはだかり、1頭につき約7万円ほどかかるという。矢野さんは「JRAにお願いし、獣医さんが臨床の経験を積む意味合いもあり無償でしてくれるようになりました。ただ担当者が世話をすることが条件なので、この形になりました」と経緯を明かす。「何千頭という馬が引退するなかで、1頭でも多くの馬を助けようと思ったら、1頭にかけるリトレーニングのコストを少なくすることが大事だと思います」と続けた。

 引退馬は新天地に向かうまでの間に預託料を稼げないので殺処分とされてしまうケースが多いのが現実。矢野さんはホースコミュニティやサラブリトレーニング・ジャパンでの支援活動について「馬自身に稼ぐスキルを身につけてもらいたいです。競走馬のまま乗馬クラブに渡しても、全力疾走をしてしまって危ないので、ゆっくり走るリトレーニングをしなくてはいけません」と語り、新天地で活躍するための手伝いをする。「受け入れ先がないときに、僕らのところで引き受け、リトレーニングをして時間をつくることで(乗馬クラブなどが)馬を欲しがるタイミングと合うかもしれない。受け入れ先に選んで買ってもらうことで大事にしてもらえる。誰でも公平にセリで入札できるようにして、(引退馬が)どこにいったか分かるように情報公開をしてもらうという形です」と説明した。

 支援活動の原点は、引退馬にあらゆる可能性を感じているということ。矢野さんは「チャンスをあげたいんです。速く走れなかったかもしれないけど、人懐っこい馬もいます。馬ができる仕事を増やしたい。教育であったり医療や福祉。乗馬はスポーツですよね。他にはお祭りイベントだとか。馬を必要としてくれている場所はあります。需要が生まれることで馬が人を助けることにもなります」と力を込める。どの現役馬もいずれは引退する。その後の世界を考えることで、人と馬の関わりを見つめ直すきっかけになるはずだ。 

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