【競輪記者コラム】ラインには「可能性の拡大」と「証明」2つの意義がある
2024年02月29日 14:50
競輪
ラインは足し算ではなく掛け算。個人で戦うよりも数倍の力を発揮することが可能になる。もちろん後ろの選手だけが得をするわけではない。自力選手もラインができれば戦法が増え、援護も見込める。お互い、あるいは3人以上でメリットを享受し合って勝つ可能性を増やす。これがラインの基本だと思う。
もう1つは「証明」である。これはある意味で可能性を軽視し己の人生観、いわゆる“競輪道”を貫くもの。直近では高松記念の決勝。東龍之介が菊池岳仁の番手で佐藤慎太郎と競った。勝つ可能性を広げるなら、競るとしてもこの位置ではないと感じた。ただ「自分の中のスジを通した」(東)。俺は“番手選手”という証明をした(当然、勝つための競りもある)。
この証明は本当に難しい。なぜか。誰ひとり同じ“競輪道”を持つ選手はいないからである。あるトップ追い込み選手は高松記念決勝について「赤パンは輪界を引っ張る1つ上の存在。S班に競るのは疑問だった」と言う。正解、不正解はない。競りもあれば先行へのこだわりなどもある。この証明は車券こそ難しいが、競輪の面白さが詰まっている。
勝つ可能性か、己の競輪道か。ラインには選手の葛藤と全てを懸けた選択がある。そんなヒューマンドラマが詰まったラインがあるから、競輪は面白い。
◇渡辺 雄人(わたなべ・ゆうと)1995年(平7)6月10日生まれ、東京都出身の28歳。法大卒。18年4月入社、20年1月からレース部・競輪担当。22年は中央競馬との二刀流に挑戦。23年から再び競輪1本に。愛犬の名前は「ジャン」。