ルヴァン杯で初優勝した湘南ベルマーレの未来
2018年11月09日 08:00
サッカー
チョウ貴裁(キジェ)監督の選手の潜在能力を引き出す力はかねてから定評がある。大学時代は攻撃的中盤だった山根をセンターバックとして起用、ボランチが本職の石川や菊地を時にはFWとして使った。さらに攻撃的MF高山もウイングバックとして使うこともある。選手の能力を見抜く目、育てる情熱は、育成の指導者としてスタートしたキャリアのたまものかもしれない。
練習の対する取り組み方には厳しい。終始指示を出し、「おまえのための練習をしているんじゃない。チームのために練習しているんだ」と声を荒げることもある。選手をよく見ていて、調子がよければ使う。逆にスタメンだった選手を次の試合でベンチにも入れないこともある。「湘南じゃなきゃ試合に出られないのに勘違いされては困る」とよくいっていたが、J1レベルで、これほど選手と真剣勝負している監督はいないし、クラブもそういう監督を意図的に選んでいる。
前身のフジタ時代は日本リーグ優勝3度など、日本のサッカー界をリードしてきた名門のひとつだ。2000年にフジタが撤退し、市民クラブとなってからは資金的にも苦しく、J2に低迷した。この10年はJ1とJ2を行き来、永木や遠藤ら主力選手は他チームからのオファーに涙を流しながら移籍を決断したという。今春、スポーツクラブ運営大手のRIZAPが親会社となり、3年で10億円の資金を得て、J1定着へ向けて動き出したばかりだ。
今回の優勝はカップ戦だから勝てたことかもしれない。鹿島や川崎Fのように、リーグ戦で常に優勝を争うようになるのは簡単ではない。資金も時間も必要になる。だが、資金が潤沢になると、高額の移籍金を払っていい選手を獲得することができるようになり、チョウ貴裁(キジェ)監督の熱血指導もあまり必要なくなる。チームは強くなると思うが、湘南の魅力でもある手作り感が薄れるような気がする。
そりゃあ、チームが強い方がいいと思うし、資金が潤沢になることを否定するつもりもない。ただ、Jリーグは多くのクラブが資金不足で悩んでいる。選手をトップチームで鍛えて育てる“湘南スタイル”は、そういうチームのいい手本で、こういうやり方もあると言うことを示していた。タイトルを取ったことは素晴らしいし、資金が潤沢になることも素晴らしい。クラブが一歩も二歩も成長することは喜ばしいが、こんなチームもあるべき。今の“湘南スタイル”が消えないようにしてほしい。