「にわか」で悪いか サッカーW杯の風物詩なんです
2022年12月15日 15:00
サッカー
居合わせた客の「知ったかぶり」に嫌気が指したのだろう。地元のボクシング強豪校の名前を出して、にわかぶりをいさめようと口をはさんできた。だが、相手が悪かった。私の同伴者は元OPBF東洋太平洋王者、パンサー柳田さんだった。
折れた鼻、目尻の縫い跡・・・。経験者だけにその酔客も相手が本物とすぐ認めた。柳田さんは腰が低い好青年で、得意なパンチなど矢継ぎ早の質問にも嫌な顔せず丁寧に答えると、相手は上機嫌になり、最後は握手をして帰って行った。
「にわか」は江戸時代、正式に芸を学んだことのない素人が道ばたで即興芝居を行うこと。修行を積んだ芸人にしてみれば苦々しい存在だっただろう。その「にわか」が「ファン」とセットとして広く認知されたのは19年のラグビーW杯。国内開催でベスト8初進出の快挙に日本中が熱くなり、ポジション名を知らなくても熱くラグビーを語る「にわかファン」は、その年の流行語大賞にもノミネートされた。
今、サッカーW杯で世間は再び「にわか」であふれている。情報過多で、「今どき地上波放送でスポーツ?」と苦笑される時代だ。観たい試合は主体性を持ってインターネットなどで探しにいかないと見逃してしまう。「にわか」も生まれにくい。
近年、プロ野球中継もネット中心に移行している。リビングルームでテレビのチャンネル権を持った野球好きの父親のおかげで子供たちも好きになる「国民的スポーツ」の構図は消え、本当に興味のあるファンが個人的に楽しむ「超人気マイナースポーツ」へと様変わりした。
ただ、スポーツが興行である以上、ファンの数は多い方がいい。吉田麻也のクリアが、南野拓実のPKが・・・。深く知らないとしても、どんどん議論した方がいい。古参ファンにはいまいましいかもしれないが、4年に1度だと思って微笑ましく見守ってほしい。
中州のコワモテさんもまさか隣の「にわか」が元王者とは思ってもみなかっただろう。だからといってボクシングを愛する気持ちに優劣があるとは思わない。江戸時代に流行した「にわか芸」は、その後、プロの役者が行う「俄狂言(にわかきょうげん)」という立派な芸に進化したという。(専門委員)
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