稀勢 国技の将来を憂いていた「中卒叩き上げ」の意地
2017年01月26日 09:15
相撲
20歳となり、新三役で迎えた06年名古屋場所3日目。ライバルだったブルガリア出身の琴欧洲(現鳴戸親方)から20代初白星を挙げた直後の支度部屋。外国出身や学生出身力士が席巻する角界の現状に、稀勢の里は思わずつぶやいた。
「このままじゃどうなるんだろう、っていうのは考えます」
中学の卒業文集に「中学校生活が俺の最後の学校生活。俺は自分の決めた道に旅立つ」と記して入門。固い決意だった。
両親には無給の序ノ口時代から、少ない場所手当の中から仕送りもした。萩原家は決して裕福ではなかった。母・裕美子さんが当時、稀勢の里の体を大きくするタンパク原として食材に使っていたのは主に豚肉。「タンパク質が同じ量なら経済的に牛肉より豚肉かな、と。栄養価も高いですし」。15歳で“独立”を選んだ背景に、経済的な部分もあったに違いない。
外国出身を除く中卒入門組の現状はどうか。17年初場所の番付では幕内42人中、叩き上げはわずか7人。高校中退や中卒で就職後に入門した「準叩き上げ」を入れても10人。半面、高卒や大卒の幕内力士は豪栄道、琴奨菊、正代、御嶽海、宝富士、松鳳山と花盛りだ。
それでも03年春場所以降、横綱の地位は長く外国出身力士が独占した。学生出身がなかなか破れなかった厚い壁。そこに割って入り最高位に就いた待望の日本出身力士は、10年前の名古屋で国技の将来を憂いていた叩き上げの代表だった。15歳から土俵でメシを食ってきた意地が、花開いた。(特別取材班)
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