今かくある自分が幸福であると信ずることのできる人間――浅田真央さん、お疲れさま
2017年04月12日 09:30
フィギュアスケート
![今かくある自分が幸福であると信ずることのできる人間――浅田真央さん、お疲れさま](/sports/news/2017/04/11/jpeg/20170411s00079000428000p_view.jpg)
可憐な少女はその後、突出した人気者になって日本フィギュア界を支える存在になった。
「どうして、真央ちゃんは、こんなに人気があるのかねぇ」
ふと問いかけると、女勝負師のスゥちゃんは、こう答えた。
「かわいいからじゃないの」
「あぁ、顔が?」
「じゃなくて。妖精みたいじゃない。回りに花が咲いてる、純真無垢な存在というか…」
老若男女を問わず、広い層から慕われる浅田さんの魅力を、スゥちゃんは「妖精」だからだと説明した。
労苦が容姿に顕れず、むしろそれを肥として洗練される人間のいることは知っている。能力や性格ではなく、客観的な幸不幸とも関係なく、今かくある自分が幸福であると信ずることのできる人間である。
くしくも同姓の浅田次郎氏が、毎日新聞で連載中の小説「おもかげ」の中で書いている一文だ。浅はかなわたしは、浅田さんの人気の根源には、悲劇性があると感じていた。恋い焦がれた五輪の金メダルを、獲ることができなかった。悲劇のヒロインには、多くの人が肩入れする。
しかし、彼女は、努力や苦悩の痕跡を、容姿や言葉に表さなかった。能力や性格だけを愛されたわけでもなかった。悲劇の最大の理由である五輪の金メダル、つまり、客観的な幸不幸とも関係なく、多くの人が魅力を感じていたとすれば…。スゥちゃんは言う。
「黒い衣装は似合わない。演技なんか、できなくていい。ジャンプだって、どうでもいい。大人ではない、子どもの妖精。そんな感じかな」
スケーターの姿を借りた妖精。そう思わせるほど、多くの人を引きつけた浅田さんは、引退発表のコメントの最後にこう記している。
「私のフィギュアスケート人生に悔いはありません。これは、(略)人生の中の1つの通過点だと思っています。この先も新たな夢や目標を見つけて、笑顔を忘れずに、前進していきたいと思っています」
競技者としてのフィギュアスケートからは離れても、妖精の魅力がなくなるわけではない。今ある自分を幸福であると信じて、前に進んでいってほしい。
◆鈴木 誠治(すずき・せいじ)1966年、浜松市生まれ。五輪担当時代は、04年アテネ五輪でメダルラッシュを経験。トリノ五輪は、大会前にメダル獲得を予言した荒川静香さんが金メダル。わたしの力は何の関係もないけど、自慢。
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