“前短距離2冠達成者”37歳末続、予選最下位も「幸せ」の理由
2017年06月27日 09:10
陸上
その男が9年ぶりに日本の頂上決戦を懸けた戦いに戻ってきた。08年北京五輪男子400メートルリレーで2走を務めて銅メダルを獲得。その後、長期休養を経て11年に復帰したが、日本選手権は08年を最後に出ていなかった。
出場種目は200メートル。大会2日目の午後5時4分から行われた予選でサニブラウンと同組、しかも偶然にも隣のレーンとなったのは陸上の神様の仕業なのだろう。その日夜には、かつてないハイレベルな争いとなった男子100メートルが行われる日程となっており、その時点で会場のヤンマースタジアム長居には既に1万4000人を超えるファンが駆けつけていた。レース直前。「第7レーン、末続君」とアナウンスされた瞬間、万雷の拍手と歓声で会場が揺れた。声援の大きさは明らかに「第6レーン、サニブラウン君」の時を上回っていた。
その瞬間、両手を上げ、さらに手を合わせて感謝の意を示した末続は言う。「こういうこともあるんだなと思った。やってて良かったと思いました。スポーツは当然結果が求められるけど、本当に誰かが勝つ姿だけを見に来ているのかな…と分からなくなっていた。初めて一人の人として見てくれていた気がした」。心も体も疲弊していた08年当時。競技場では何も感じなくなっていたという。それから9年。「大事な心の部分を失っていたけど、それは競技場でしか取り戻せない」。誰からも追いかけられないし、注目されなくなった。それでも陸上をやめなかったのは、あの頃に失ったものを取り戻すためだった。
結果は首位のサニブラウンから遅れること0秒89差の最下位。それでも末続は「今出せるベストのタイムを出したと思う。終わった後は気持ちよかった」と満足げな表情を浮かべた。そして、肝心のあの頃失ったものについてこう語った。「9年かけて何かを求めて走ったけど、今日は走っているのが一人じゃないと思った。20台の頃は一人で走っている気がして寂しかった。今日は楽しかったし、幸せでした」。
末続が失ったものを取り戻せたかどうか。それは本人にしか分からないが、囲み取材の去り際につぶやいた一言が記者にはそのヒントなのかもしれないと感じた。
「僕の魂。走るということ自体が。陸上が大好きということは、十分分かっている」(記者コラム・鈴木 悟)
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