世界陸上の注目は男子マラソンの川内優輝 ぜひ悔いのない走りを
2017年08月04日 09:00
陸上
川内のマラソンの自己ベストは13年のソウル国際でマークした2時間8分14秒。日本歴代19位相当で、記録的にはずばぬけて速いわけではない。にもかかわらず長い間これだけ多くのファンの支持を得てきたのはその生き方に共感する人が多かったからだろう。
高校、大学で駅伝を走り、卒業後は実業団でマラソンに取り組む。長い間日本の陸上界はこの路線を踏襲し、実際にそれで結果を残してきた。そんなお決まりのコースに一石を投じたのが川内だった。実業団には所属せず、公務員ランナーとして市民マラソンを走りながら力をつけてきた。疲労回復や準備期間を考慮してフルマラソンはせいぜい年に2回までというそれまでの常識を打ち破り、毎週のようにフルマラソンやハーフマラソンを走った。当時の日本陸連や実業団の関係者はそんな川内を異端児扱いし「あんなやり方が通用するわけがない」と突き放した。それでも川内は頑として自分のやり方を変えなかった。
陸連肝いりのナショナルチームにも批判的で、自らは専門のコーチやトレーナーは付けず、常に試行錯誤しながら走り続けた。もちろん、川内も五輪や世界選手権でメダルを獲ったわけではないので、このやり方が正しかったのかどうかはわからない。だが、日本の男子マラソンが世界からどんどん取り残されていく中で、従来とはまったく違うアプローチがあることを示した意義は決して小さくない。
できることなら、これからは後進の指導にも力を入れてほしい。別に大学や実業団の監督になる必要はない。市民マラソンの場で、あるいはメディアやネットを通じて、いろいろな考えを発信してくれればいい。その考えに同調し、さらに新しい発想で強化に取り組む指導者や選手が出てくれば、日本マラソン復活への道が開けるかもしれないではないか。
今回のマラソンは初の男女同日開催で、6日に行われる。最後に川内がどんなドラマを見せてくれるのか、今から待ち遠しい。 (編集委員)
◆藤山 健二(ふじやま・けんじ)1960年、埼玉県生まれ。早大卒。スポーツ記者歴34年。五輪取材は夏冬合わせて7度、世界陸上やゴルフのマスターズ、全英オープンなど、ほとんどの競技を網羅。ミステリー大好きで、趣味が高じて「富士山の身代金」(95年刊)など自分で執筆も。
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