eスポーツ 専門学校でゲーマー養成、変わってきた“風向き”
2017年09月04日 05:30
スポーツ
数台のデスクトップPCに若者たちが張り付いている。視線には集中力がみなぎっていて、キーボードを瞬時に叩き、マウスを目まぐるしいほどの速さで操り、お互いがかけ声や指示を飛ばし合う。数分間の後、全員が歓声を上げ、ヘッドホンを外して笑顔で肩を叩きあった。
画面をのぞきこむと、そこには市街地の戦闘を制した兵士たちが立っていた。
学生たちが取り組んでいたのは世界的に人気のあるFPS(※)のタイトルで、繰り広げられた光景はオンラインによる対戦で相手チームに勝った瞬間だった。自らも国内屈指のプレイヤーである講師の鈴木悠太氏は語る。「もっとうまくなりたいと思う学生は大会に積極的に参加します。一方で一時的に自信をなくしてしまう学生もいるので、指導とともにフォローも大事ですね」。ゲームをして“遊んでいる”わけではない。東京アニメ・声優専門学校では、これが日常の授業風景だ。
東京・江戸川区、下町の情緒を感じさせる住宅街のなかに校舎はある。アニメ、マンガ、ゲーム業界などを志す学生たちのために門戸を開いてきた同校が、次代のエンターテインメント産業の成長分野として注目したのがeスポーツだった。16年に学部にあたる「e−sports プロフェッショナルゲーマーワールド」を創設。プロゲーマーの養成を目標とする「総合プロゲーマー専攻」など6コースで100人以上の学生が学んでいる。
日本では法律上の制限があるため高額の賞金大会が開催不可能となっているが、海外では優勝賞金1億円以上のビッグイベントも珍しくない。日本のプロ野球選手の平均年俸は約4000万円、Jリーグの選手の平均年俸は約2000万円、男子プロゴルフのツアートーナメントは1大会の賞金総額が1〜2億円が多数となっている。「プロゲーマーとなって生計と立てる」というのは、アスリートがプロスポーツの世界で成功を目指すのと同じようなレベルの目標となりつつある。
東京・アニメ声優専門学校への問い合わせも、eスポーツ専門コースを創立した当初に比べてニュアンスが変わってきていると鈴木は感じている。「学部開設を発表してからの1年間は、企業や入学志望の親御さんからのご質問には“でも、ゲームなんでしょ?”という声もありました。今はそれがなくなってきています」。風向きは確実に変わってきた。
だが、ゲームが単なる遊びからeスポーツへと変化すれば、そこには社会的な責任も生まれる。プロスポーツの世界と同じように、eスポーツのトッププレイヤーも富と名声をつかめるのはほんの一握りの勝者たちだけだ。長い時間をゲームに費やして鍛錬に励んでも、成功を収められる保証はない。
同校ではプロゲーマー専攻以外にもゲームクリエイター、イベント運営、宣伝・プロモーションなどゲーム業界に関係するスキルを学べる専攻を設置。コース横断的なカリキュラムを組めるようになっている。10代から20代になる学生たちが人生の目標を定めてやってくる。同校もその責任の重さを担う。「eスポーツに夢を持って入学してくれる学生たちに、しっかりした教育や方針を示さなければいけないと肝に銘じています。それは、自分が抱く理想像と現実が必ずしも一致するとは限らないという局面にも、学生に向き合ってもらうということも意味します。学生が目指す夢や理想を全力で応援する環境を整えて、その上で一人一人の夢や理想を現実と引き寄せることも真剣に考えてあげられるようにしていきたいです」(鈴木)。=続く=
※FPS ファーストパーソン・シューティングゲームの略。プレーヤー本人の第一者視点によるアクションゲームを指すジャンル。
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