体操・橋本大輝の不思議な能力 16年全中最下位から4年…急成長18歳
2020年03月03日 09:00
体操
リオデジャネイロ五輪で日本が世界を制した16年夏、千葉・佐原中3年生が残した成績からは、今の姿は想像できない。福井で開催された全国中学校体育大会。開幕直前に右足首を骨折し、ドクターから手術を勧められる状態でも強行出場した。6種目の個人総合で演技できたのは、あん馬と鉄棒。2種目だけの得点で最下位の107位だった橋本は今、夢舞台の頂点を視界に捉えている。
「今年は勝負の年。今やるべきことをやっていけば、五輪で金メダルを獲れると思っている」
◆昨年世界選手権銅メダルに貢献
市船橋高では全国中学校大会を制した安達太一、2位の渡辺向祥らが同期。国内屈指の強豪校にはライバルが集い、橋本が進学先を考える際には「試合に出られないかもしれない」という思いを抱えていた。トップクラスに程遠い状況から昨年、世界選手権に初出場。13、14年の白井健三以来となる高校生代表で、日本の団体銅メダルに貢献した。
市船橋高の神田真司総監督(61)ですら、中学時代の橋本からは明るい未来を描くことは容易ではなかった。「中学の県大会とかを見ても、能力があるのは分かっていたけど、ここまでパーンといくとは想像していなかった」。粗削りで体操の基本となる倒立も汚かったが、高校での日々を過ごす中、名将は気づく。「この子には、不思議な能力がある」と。
◆メンバー外でも6種目ノーミス
高校1年の秋、国体で橋本は補欠だった。出場メンバーが練習会場でウオーミングアップをする前、神田総監督は橋本に6種目の通し練習を命じた。結果はノーミスだった。「練習やっとけよ、と言っても、補欠で試合にも出ないし、そうはやれないもの。あの時に“なんだ、この子は!?面白い子だな”と思った」と同総監督は振り返る。
高校2年、橋本の意識レベルは、まだ低かった。全国高校総体のメンバーに入ったが、どこに目標を定めている練習なのか、神田総監督には分からなかった。「優勝を狙ってほしかった」と言う指揮官は、「それは個人総合でトップを狙っている練習じゃないだろ」と指摘。直後から目の色を変えて汗を流し、総体では個人総合で2位に入り、団体総合では清風高との同点優勝に貢献した。
◆新技習得即投入「仕上げてくる」
そして、高校3年。春からの国内選考会で結果を残して世界選手権へ。その後の個人総合スーパーファイナルでは、代表の萱和磨(23=セントラルスポーツ)らを抑えて優勝を飾った。神田総監督が最も評価するのは再現力だ。新しい技を習得すると、すぐに次の試合に投入できる。「普通は練習でできても何試合か見送るけど、彼(橋本)は絶対に使うんだという気持ちで仕上げてくる」と説明した。
高校生活の集大成となるアメリカン杯ではリオ五輪銀メダル、19年世界選手権でも銅メダルのオレグ・ベルニャエフ(ウクライナ)らと激突する。「順位を気にせず気持ち良く試合をしたい」と橋本。4月5日の東京大会も含めて好結果を出せば、最短ルートで夢切符を獲得できる。8月7日生まれで「大輝」という名前に、両親は「大きく夏に輝けるように」という願いを込めた。黄金の夏を見据え、18歳が完璧な演技を積み重ねる。
《国内選考は内村、白井ら含めた大激戦》東京五輪の団体総合の枠は「4」。7日の個人総合W杯シリーズ、アメリカン杯(橋本)、21日のドイツ大会(萱)、28日の英国大会(萱)、4月5日の東京大会(橋本)の4大会で国別のポイント上位3カ国に入れば、該当国に追加の個人出場枠が与えられる。
出場枠を得た場合、日本協会は団体の選考に優先的に使用し、4大会で3位以内&日本人最上位の得点をマークした選手は団体代表に決定。個人総合W杯で出場枠を逃しても、3位以内&日本人最上位&86・973点以上なら代表に決まる。
国内選考は4月の全日本選手権、5月のNHK杯で、計4日間のスコア上位2人(W杯で代表入りした選手がいれば、代表を除く最上位)が代表に。残り2人は、代表2人と団体を組んだ時に貢献度が高くなるスコアを残した選手を選ぶ。
昨年は両肩痛に苦しみ全日本で予選落ちを喫した内村航平(31=リンガーハット)、白井健三(23=日体大大学院)や、谷川航(23=セントラルスポーツ)、弟の翔(21=順大)らが熾烈(しれつ)な代表争いを繰り広げる。
▽橋本の19年世界選手権 初出場の橋本は予選で床運動、あん馬、跳馬、鉄棒の4種目で演技し全てチームトップの得点をマーク。団体総合決勝も同じ4種目に登場し、ミスが出た床運動で涙を流したものの、銅メダルに貢献、種目別決勝は、あん馬9位、鉄棒は4位だった。
◆橋本 大輝(はしもと・だいき)2001年(平13)8月7日生まれ、千葉県成田市出身の18歳。6歳で体操を始め、佐原中から市船橋高へ。昨年は全日本選手権7位、NHK杯6位などで世界選手権に出場した。憧れの選手は16年リオ五輪団体金メダルの田中佑典。4月に順大に進学する。1メートル65、54キロ。
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