追悼連載~「コービー激動の41年」その39 ブライアントの態度とジャクソンの苦悩
2020年03月26日 08:00
バスケット
「コービーは高校時代、わざと接戦に持ち込んで最後に目立つために、途中でさぼっていたらしい」。
この発言はオフレコにならなかった。そう、テランダー記者が書いてしまったのだ。ブライアントは激怒。以後、ジャクソンとは距離を置くようになったという。指揮官との信頼関係が薄らぐと、選手の精神状態は不安定になる。それが私生活に影響したケースは枚挙にいとまがない。だからカプチャクGMとは違って、ジャクソンはそれを現実としてすぐに受け入れた。もちろん仲が悪いからといって何もしなかったわけではない。しかし3度電話したがいずれも留守電。ブライアントは決して返事をよこさなかった。
ジャクソンによる日記スタイルの著書「The last Season(2004年刊)」ではこう記されている。
「2003年8月28日。コービーは自分が信用する人間だけに話をした。私はそのグループの一員ではなかった。ミッチ(カプチャクGM)と私は、彼がシーズンをすべて休んでしまうんじゃないかと思っていた。休養させることも検討したし、それも仕方がないと判断していた。そこへコービーがオフィスにやってきた。15ポンド(約6・8キロ)ほどやせていたようだ。やつれているように見えた。13歳の頃から誰よりも練習してきたはずなのに、この時期に体ができていないというのはショックだった。何か助けは必要か?と尋ねたが答えはNOだった。このつらい時期を乗り越えてほしいと言ったが、私たちは核心を突くことをお互いに避けているような感じだった」。
事件の詳細をブライアントは久々に会った指揮官にきちんと説明しなかった。不祥事を起こした選手が監督と会ったら、まず謝罪してどんな事が起こったのかを報告するべきだと思うのだが、オフレコ事件の影響もあったのかブライアントは何一つ話そうとしなかったそうだ。
覇権奪回を狙う2003年シーズンのキャンプは10月11日に始まったが、そこにブライアントの姿はなかった。コロラドでの事件が影響していたのは明らかだったが、ブライアントは代理人を通して「病気がちなので空路での旅ができない」と首脳陣にとっては納得しがたい理由を突きつけてきた。
さすがにジャクソンは怒った。「病気なら医者に診てもらうべきではないのか」。指揮官としてはつらい時期だったと思う。ゲイリー・ペイトンとカール・マローンの両ベテランが悲願の初優勝を目指して新天地にやってきたのに、その先輩を迎えるべき後輩が集団と距離を置いてしまったのだ。おまけに「自分の悪口を言ったら許さない」と、すでに犬猿の仲になっていたシャキール・オニールには宣戦布告。スパーズに敗れて4連覇を逃し、出直しを図るシーズンだったはずなのに開幕前からチームは内紛状態に陥っていた。
「もしかしたらコート上でブライアントとオニールがつかみあいの大げんかをするのでは?」と心配する関係者もいた。開幕戦は地元ロサンゼルスでのマーベリクス戦。ジャクソンはビデオを見ながら、相手の攻撃をどう抑えるべきかを考えていたが、そこにブライアントがドアをノックして入ってきた。口をついて出てきた言葉は指揮官にとってはまたしても信じられないものだった。(敬称略・続く)
◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。NFLスーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会には一昨年まで8年連続で出場。フルマラソンの自己ベストは2013年東京マラソンの4時間16分。昨年の北九州マラソンは4時間47分で完走。
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