女子57キロ級・川井梨らには“旬”維持の試練が…「金量産」期待のレスリング代表
2020年04月30日 05:30
レスリング
日本の五輪内定選手は8人。特に実力的に金メダルが有力な女子57キロ級の川井梨、男子フリースタイル65キロ級の乙黒拓、グレコローマンスタイル60キロ級の文田にとっては試練となるかもしれない。現時点で一番強いと言われている3人は、今年の夏に五輪を迎えた方が金メダルの確率は高かった。1年後となると、不透明な現状では実力がどう変わるか分からない。
川井梨はこの階級では実力が抜けているが、他国の選手の伸びしろも大きい。文田、乙黒拓は減量に不安があるため、それを含めてのコンディショニングを考える必要がある。加えて、海外勢から研究対象とされるため得意技プラス、幅を広げるためにパターンを増やすことに取り組まなければならない。
一方で、調整すれば力を伸ばすことができる選手もいる。女子68キロ級の土性はケガ明けで、1年延期を良い方向に捉えればチャンスが出てくる。62キロ級の川井友、53キロ級の向田も若く、伸びしろがある。昨年の世界選手権では実力的に金メダルに届かなかったが、1年でさらにレベルアップを図ることができると考える。
あえて内定選手の代表権維持に言及するならば、これは他国も同様だが、1年後の大舞台が最高の力を持った選手たちの争いになるのかは疑問だ。五輪は世界最高峰の戦いの場。日本の内定選手の多くは昨年6月の全日本選抜で世界選手権代表となり、その世界選手権で五輪代表に内定して「2年後」を戦うことになった。数カ月あれば伸びしろのある選手は出てくる。それでも、今の状況で予選をやり直すことは難しく、代表権を優先することに異論はない。
また、現状で五輪出場枠を獲得していない10階級は、昨年12月の全日本選手権覇者が五輪アジア予選、世界最終予選に臨むことになる。枠獲得と同時に代表内定となる彼らには、予選までの期間も日本のトップであり続けなければならないという重圧がかかる。特に本番で金メダルが狙える女子50キロ級の須崎、男子フリー57キロ級の樋口の階級は国内代表争いが激しく、追う選手との差はわずかだっただけに、周囲の雑音が出てくるかもしれない。それでも割り切って五輪に合わせ、モチベーションとコンディションを維持してもらいたい。
日本が来年、目標を達成するために準備できることはたくさんある。例えば女子レスリングは近年、世界全体で成熟しており、体力レベル、ディフェンス力が上がった海外勢から簡単に点が取れなくなってきている。今までのレスリングでは勝てないということは選手たちも自覚していると思う。そこをどう戦っていくか、この1年でつくり上げてほしい。
一方、男子はフリー57キロ級、65キロ級、グレコ60キロ級で金メダルを獲れるようにサポートを含めて強化に取り組んでもらいたい。例えば文田。得意の投げが封じられてもグラウンド(寝技)で返せるようになったが、今度はこの期間でグラウンドに対策が施されることになるだろう。ポイントを取り切れる技を増やすために、どうするのか。24時間は全員に与えられている。今やれることを最大限やり続けて、1年後、センターポールに日の丸を揚げてほしい。
◆佐藤 満(さとう・みつる)1961年(昭36)12月21日生まれ、秋田県八郎潟町出身の58歳。秋田商高―日体大。88年ソウル五輪フリースタイル52キロ級で金メダルを獲得し、92年バルセロナ五輪52キロ級6位。95年にペンシルベニア州立大へ留学後、97年に専大レスリング部ヘッドコーチに就任した。現在は専大経営学部教授。医学博士。
《伸びしろ大 期待の内定選手》18年12月の全日本選手権に続いて昨年6月の全日本選抜を制した選手と、2大会の優勝者が異なる階級はプレーオフを制した選手が、昨年9月の世界選手権代表に選ばれた。
その世界選手権で3位以内に入った女子の川井梨、川井友、向田、皆川、男子グレコの文田が五輪内定。5位で出場枠を獲得した3階級は、昨年12月の全日本選手権、今年3月のプレーオフで土性、乙黒拓、乙黒圭の内定が決まった。
出場枠を獲得していない10階級は全日本選手権覇者が五輪予選に臨む。世界レスリング連合は開催時期、開催地について、五輪アジア予選を来年3月下旬に中国・西安、世界最終予選を同5月下旬にブルガリア・ソフィアで行うとしている。
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