追悼連載~「コービー激動の41年」その97 なぜレイカーズはロサンゼルスに移転したのか?
2020年05月23日 07:40
バスケット
「他の都市ならチェンバレン見たさで客がもっと入ったはずだ」
実はこの試合を前にしてレイカーズは遠征に出かけていた。といっても便宜上はホームゲーム。収益拡大のために他の都市での興行を増やしていたレイカーズはロッキー山脈を越え、ロサンゼルスでの試合に臨んでいた。乗っていたのはその10日ほど前に電気系統の故障でアイオワ州のトウモロコシ畑に突っ込んだあの忌まわしきDC―3の同型機。もちろん選手全員が「また落っこちるんじゃないか」とビクビクしながらのフライトだった。
客足は上々だった。このころやがて1984年の夏季五輪でメーン・スタジアムとなったコロシアムの隣に1万4000人収容のLAスポーツ・アリーナが完成。その後クリッパーズがここを本拠地にしたが、このコートの存在がショート・オーナーの心を揺り動かした。
「いろいろな都市で試合を行ったが、もうここしかない。とにかくどこかに移らなくてはいけないと思った」とオーナーにとっては一種の不毛の選択。ミネアポリスにはNFLバイキングスと大リーグのツインズが本拠を置いており、当時のNBAはファン獲得合戦で後塵を拝していた。ミネアポリス公会堂などホームコートが4カ所あったことも固定ファンがつかない原因だった。それに比べてロサンゼルスは1957年に大リーグのドジャースがニューヨーク州のブルックリンから移転してきたばかりで、スポーツ界にとっては新たな市場だった。中立都市での試合開催は興行的には成功しなかったが「引越し先の下見」としての効果はあったのである。
一度は自社株の売却でチームを救ったミネアポリス・スター紙のチャーリー・ジョンソン編集局長は「レイカーズの没落」というタイトルで記事を執筆している。それによるとミネポアポリスでの経営破綻の原因は(1)プロとしてのリーダーシップ性とマネジメントに欠けていた(2)ドラフト、コーチの人選、トレード、選手の契約で失敗を重ねた(3)他の都市で試合をやりすぎてファン離れが加速した。さらにホームコートが4つもあってはファンが定着しない、といった3点を挙げている。
チームの草創期を支えた初代ビッグ3の一人、バーン・ミケルセンはホームコートの多さについてこんなエピソードを紹介している。
「その日はArmony(兵器工場の意味だが工場を改築して体育館にしたものと思われる)での試合だったんだが、エルジン(ベイラー)が遅刻してきたのさ。彼はてっきり公会堂での試合だと思っていたようだ。選手がどこで試合をするのかわからないのに、ファンにどうやってそれを伝えるんだね?」
現在ならインターネットで調べれば試合会場や日程などすぐにわかるが、なにせアナログの1950~60年代。興行は日々、さまざまな混乱と直面していた。
ショート・オーナーから移転の打診を受けたNBAはオーナー会議を開いて投票を行った。結果は6対1で可決。唯一、反対票を投じたのはニックスだった。表向きの理由は「西海岸へ移動すると旅費がかさむ」だが、本音は違うところにあった。「レイカーズがミネアポリスにとどまれば赤字が続く。そうなると借金を申しこんでくるだろうから、そのときにはベイラーを借金のカタにいただこう」。なんとも邪悪な反対票だったが、レイカーズは多数決という民主的な決議方法によってなんとか新天地に移ることになった。
なぜコービー・ブライアントがロサンゼルスの住人になったのか?それは多くの人の運命が過去に積み重なっていたから。そしてその中に彼の人生も吸い込まれていく。(敬称略・続く)
◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。NFLスーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会には一昨年まで8年連続で出場。フルマラソンの自己ベストは2013年東京マラソンの4時間16分。昨年の北九州マラソンは4時間47分で完走。
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