【夏場所メモリー 若乃花(東大関) 突き落とし 曙(東横綱) ( 【14日目】1998年5月23日 )】
曙の突きに後退したところで、若乃花が驚異の粘りを見せた。俵で踏ん張ってから左足を軸に体を開くと、勢い余った相手が前のめりに倒れた。軍配は曙に上がったが物言いがついた。「もう一番取るつもりで自分に言い聞かせていた」が左足は残っており、差し違え。3敗を守って単独トップに立った。
大関29場所目で3度目の綱獲り。過去の2度は肝機能障害、右大腿二頭筋断裂で途中休場に追い込まれた。混戦で踏ん張った3度目は、千秋楽の本割で敗れても決定戦が残されていたが、審判部は4敗の優勝なら横綱審議委員会に諮問しないと決めていた。重圧が懸かる武蔵丸戦。立ち遅れながらも勝ち、5度目の優勝を飾った。
「ケガをしてからずっと苦しかった。あの苦しみがあったからここまで来られた」。小さな体で曙、武蔵丸らの大型力士と戦い続けた「お兄ちゃん」。弟・貴乃花の昇進から3年半、史上初の兄弟横綱が誕生した。ただ、兄弟でも取り口や相撲観は全く違う。この昇進が絶縁の始まりとなった。