パラテコンドー・太田渉子 競技普及へ夏のメダルを 東京パラリンピックまで300日
2020年10月28日 05:30
テコンドー
日本人選手が活躍することで、競技が盛り上がる。スキー選手時代、身に染みて感じていたことの1つだった。当時ともに世界で戦っていたのは、アルペンスキーで94年リレハンメル大会から5大会連続でパラリンピックに出場し、日本人初の冬季大会金メダリストとなった大日方邦子(48=現日本パラリピック協会副会長)。そして太田と同じノルディックスキーで98年長野大会から6大会連続出場し、金を含む5つのメダルを獲得した新田佳浩(40=日立ソリューションズ)がいた。
「レジェンドと呼ばれる2人が、メダルを獲得して盛り上げているのを見てきた。私がテコンドーでどこまで行けるか分からないけど、新田さんや大日方さんのようにやってみたいと思った」
東京大会から新競技として採用されたパラテコンドー。日本国内では浸透しておらず、競技人口も少ない。だからこそ唯一の女子選手として、自らの可能性を信じて新たな世界に飛び込んだ。競技との出会いは15年。知人から「東京大会から新競技になるスポーツ」として存在を知り、全日本テコンドー協会のジュニア合宿に見学へ行ったことが始まりだった。
「足技がきれいで、踊っているように軽やかな感じに惹かれました。練習用のミットを初めて蹴ったときは爽快だったし、いい運動だなって」
そのときは、あくまで趣味の一環。その思いが変わったのは「競技を普及したい」という一心だったという。18年1月に第1回全日本選手権に出場し、強化指定選手の座を射止めると、10月には競技に専念するためにソフトバンクに転職。東京大会に照準を定めて本格的に選手活動を開始したが、これまでスキーで培ってきた経験は、ほとんど生きなかった。
「スキーをやっていたから脚力はあるほうだと思っていたけど、もう一段階上のレベルってなると足りなかった。身体のねじりや、頭から腰までひねる流れも今までにないものでした」
それでも、鍛え上げてきた精神力や基礎身体能力が支えになった。走り込みや体力強化を重点的に行い、19年2月に初出場した世界選手権で銅メダル。夏冬両大会でメダルを狙える位置にいる。
コロナ禍で東京大会は1年延期となったが、この機会に「チーム太田」を結成。フィジカルトレーニングや栄養サポート、動画の分析などを行い、さらなる高みを目指せる環境を整えた。東京で結果を残すことはもちろん、太田はさらに先を見据えている。
「将来的にはパラスポーツでもたくさんの指導者や地域のチームとかがあって、気軽にいつでも始められるような環境作りをしていきたい。だからこそ東京で結果を残し、実際に競技の魅力を伝えていくことが大切だと思います」。選手としての決意、覚悟、責任。全ての思いを蹴りに乗せて、太田は戦い続ける。
○…スキー選手として日立ソリューションズに所属し、日本初のパラスキー部「チームAURORA(アウローラ)」で活動していた太田だが、「新しい環境でゼロからテコンドーに専念したい」という思いで、18年10月にソフトバンクに転職。平日はフルタイムで働きながら、定時より早く上がり、練習を重ねている。競技に関する費用に加え、上司や同僚の理解もあり、合宿や長期遠征期間中の仕事の引き継ぎもスムーズだという。
▽パラテコンドー 東京パラリンピックで実施されるのは上肢障がいの選手によるキョルギ(組手)のみ。男女合計6階級で実施される。八角形の試合場や試合時間(2分×3ラウンド)、防具は健常者と同じ。しかし、パラでは胴体への蹴り技のみが有効で、頭部への蹴りは反則となる。蹴りの種類によって得点が異なり、最高は360度の回転蹴りで4点となっている。
◆太田 渉子(おおた・しょうこ)1989年(平元)7月27日生まれ、山形県尾花沢市出身の31歳。小3から地元のスポーツ少年団でスキーを始め、04年からパラスキーのW杯参戦。06年トリノ・パラリンピックには日本選手団最年少の16歳で出場し、バイアスロン長距離で銅メダル。10年バンクーバー大会ではクロスカントリー・スプリントで銀メダルを獲得した。1メートル64、58キロ。
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