競歩の女王・岡田が背負ってきた重圧とは 第一人者の苦悩と新たな気付き
2021年04月21日 17:27
陸上
女子競歩史のターニングポイントとなった大会。敗れた岡田は「私が女子競歩界を引っ張らなきゃという変なプレッシャーを感じていたが(藤井に負けて)ほっとしている感じもある」とコメントした。女王の口から出た「ほっとした」という言葉が気になった。大会のほとぼりが冷めたころ、岡田に取材を申し込んで「ほっとした」真意を聞いた。
取材当時、岡田は国立スポーツ科学センター(JISS)で個人合宿を行っていた。今年8月に札幌で行われる東京五輪本番を見据えて一から体作りする「キックオフのスタート合宿」だという。オンラインで対応してくれた岡田は苦い経験となった敗戦について、丁寧に語ってくれた。
「(日本選手権は)ビックカメラに入ってから毎年勝ち続けていた。勝つのは当たり前の雰囲気があった。そんなに深く考えることないのに、女子競歩の第一人者として勝ち続けることが私が私である一つの条件だと思い込んでしまっていた。(大会が終わって)3日間くらいは落ち込んだ。そのあとは徐々にスッキリして、不謹慎かもしれないけど気持ちが軽くなった。もう一回強くなれると思った」
「第一人者として勝ち続けること」。それが岡田にとって、どれほどの重圧だったのか。
以前の日本女子競歩は12年ロンドン五輪に出場した川崎真裕美、大利久美らが引っ張っていたが、ロンドン五輪後に2人とも引退。立大生として日本インカレ4連覇など実績を残していた岡田が女子競歩界の期待を一身に背負う立場となった。
「初めて日本代表になったときはうれしい!うれしい!とルンルンでした。でもそこから結果を求められることを知って、そこからは世界との差をどうやって詰めていけるかというところで悩んだ」と当時の心境を振り返った。
世界と戦うために男子選手の練習を真似たり、男子選手に付いて練習をしたりと試行錯誤を繰り返したが結果に結びつかなかった。15年世界選手権は25位、16年リオデジャネイロ五輪は男子50キロの荒井広宙が銅メダルを獲得した一方、岡田は16位に終わった。リオよりも上の順位を目指した17年ロンドン世界選手権も18位と順位を落とした。日本選手権を連覇していても世界では戦えない。女子の世界大会派遣は要らないとツイッターで書かれたこともあった。
「代表にはなるけど、世界との差を毎年感じてしまう」。自分1人で世界と戦わないといけない、自分の結果で女子競歩の人気が左右される。目に見えない重圧を軽くしてくれたのは、五輪を戦う同志でもある藤井の存在だった。
藤井とは所属先こそ違うが、そこは競歩ファミリー。ともに合宿をすることでお互いに刺激しあい、競争意識も芽生えた。19年世界選手権では岡田が6位、藤井が7位に入賞。日本勢2人同時入賞は初めてとなるなど世界で戦える選手に成長した。藤井の台頭で岡田1人が背負っていた女子競歩界を引っ張るという責任も分け合えることができた。
東京五輪延期が決まった去年3月ごろ、岡田は体調を崩していた。藤井とLINE(ライン)で連絡を取り合い、「来年は2人で大成功させよう」と励まし合ってきた。これまでは世界と自分1人で戦ってきたが、今度は1人で戦うわけじゃない。そう思うと岡田の気持ちがすっと楽になった。無意識のうちに背負っていた心の重荷がなくなった。
東京五輪まで残りわずか。岡田は今回のJISS合宿で歩き方の基礎作りからゆっくりと始めている。
「一回負けたくらいですべてが終わるわけじゃない、もう一回頑張るんだと思った。(敗戦で)こんなに競歩が好きだったんだと再確認した。もしいつも通り勝っていて、記録もそこそこでいたらもしかしたらこの気持ちにはなっていない」と新たな気付きを胸に練習を続けている。
「五輪で女子競歩は入賞もない状況なので最低限入賞したい。メダルにも挑戦したいと思っている。じっくり練習する時間は残されている。ピラミッドでいう底辺を作って、それを仕上げていくイメージで五輪当日を迎えられたらいいですね」
ここに来て新たな境地に達した女王・岡田。8月の北の大地で進化した歩きを期待して止まない。(記者コラム・河西 崇)
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