【ラグビー日本代表2021秋の陣《1》】主将継続か否か 岐路に立つリーチ「今は分岐点」
2021年09月29日 12:47
ラグビー
苦笑いと思案が入り交じった表情を浮かべ、ほんの一瞬、言葉を切る。
「どうなるか、分からないですよね」
9月21日に39人が発表された日本代表候補。当初、日本協会が配布した資料には、リーチの名の横に主将を示す「◎」が振ってあった。だがオンラインで行われた会見で男子15人制強化責任者の藤井雄一郎ディレクターは、キャプテンの白紙を強調した。冒頭の反応は、その発言を伝え聞いた時の様子だ。当然主将を続けるつもりだった、あるいは続行を希望している。そんなリーチの強い意志がにじみ出たような、わずか5秒にも満たないやりとりだった。
W杯に3度出場、うち2度は主将の大役を務めたリーチも、この10月には33歳になる。ラグビープレーヤーとしてはベテランの領域に足を踏み入れたと言っていい。最も年齢を感じることに「髪の毛」と短く刈り揃える頭をなでて冗談めかすが、ジャージーを着た時のパフォーマンスの“変調”は、本人のみならず周囲も感じている。主将は常に先発し、誰よりも熱く激しくプレーすべし。それは「試合に出ないキャプテンは存在するが、チームにとっては良くない。チーム優先で考えた時に、一番ベストな形を作るのが理想。ヘッドコーチが迷わないようにしないと。(主将になる選手は)他の選手が一番出るべきと思わないといけない」との発言にもにじむ。そのリーチとジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチ(HC)が共有する主将像に、今は達していない。だからこその主将白紙であり、リーチは「今は分岐点だと思う」と重い言葉を放った。
日本代表が19年W杯以来、1年8カ月ぶりに臨んだ今夏のテストマッチ2試合には続けて先発こそしたものの、プレーは精彩を欠いた。千載一遇となった全英・アイルランド代表ライオンズ戦は、後半10分という早いタイミングでベンチに退いた。2年前のW杯でも恥骨の痛みが長引き、アイルランドとの第2戦はW杯3大会目で初のリザーブスタート。ジョセフHCの荒療治で第3戦以降は復活を遂げたが、日本代表における立ち位置が徐々に変化しているのは間違いない。FW第3列は次期主将候補にも挙がる姫野和樹やピーター・ラブスカフニ、20代前半のテビタ・タタフやベン・ガンターが台頭し、他の選手も含めて最も先発争いの激しいポジションだ。
W杯後からこれまでに、リーチは合計6度の手術を受けた。1年前には「頭から足首まで、何個か」とぼかしたが、懸案だった股関節にもメスを入れ、「コンディションは悪くない」という。W杯直後のトップリーグでは、膝の負担を減らそうと体重を落としてシーズンに臨んだが、結果的にパフォーマンスも体調も上向かなかった。新型コロナによる1年間の代表活動停止は、曲がり角にさしかかった体をメンテナンスし、精神的にも再び活を入れる意味で、リーチ個人にとってはプラスの面が大きかったかも知れない。
合宿2日目に早速実施される予定のフィットネステストでは、これまでよりも高いノルマが設定されているという。9月下旬の時点で「まだ(タイムに)5秒足りない」としていたが、約2カ月間のオフには土台作りに着手。心拍数を160以上に保った状態で有酸素運動を行うことを心掛けた。「特にバイクをこぐ時に、(心拍数を)160より上で続ける訓練をしている。凄くきつい。毎回、はきそうになる。168はできるが、169になるとできない」。詳細な数字がスラスラと出てくるのは、真剣に自身の体と向き合ってきた証拠だろう。
「キャプテンは有言実行できる人がやるべき。常に一貫性を持って。それ(考え方)は昔からぶれない。大変さは肌で感じている。その大変さを簡単に人にやらせてはいけない。プレッシャーがかなりある。負担を他の人に与えたくない」
首脳陣や他の選手が納得するパフォーマンスを取り戻し、再び大役を任せてもらえるか。リーチ個人、そして日本代表全体にとっても「分岐点」となりそうな2021年の秋は、日に日に深まっていく。(不定期連載)
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