ビルズのマクダーモット監督が口にした「GUT」の意味 13秒を守り切れなかった悔恨

2022年01月26日 09:07

アメフト

ビルズのマクダーモット監督が口にした「GUT」の意味 13秒を守り切れなかった悔恨
チーフスに敗れたビルズのマクダーモット監督(AP) Photo By AP
 【高柳昌弥のスポーツ・イン・USA】「GUT」を複数形にすると「ガッツ」。意味を説明するまでもないだろう。「OK牧場」が頭に浮かんだらたぶん昭和世代だ。
 日本人にも浸透している英語のひとつ。単数形の「ガット」もテニスをやっている方なら当たり前だろうし、熟練している人ならテンションの調整や張り替えにも技術を持っていることだろう。

 ただし23日に行われたNFLプレーオフのAFC準決勝で、チーフスに延長の末に36―42で敗れたビルズのショーン・マクダーモット監督(47)が口にした「IN MY GUT FOR YEARS」は少し意味合いが違う。

 ビルズは勝っていた。あの試合を見ていた誰もがそう思っただろう。おそらくチーフスのファンを含めて…。

 試合は同点3回、逆転4回というシーソーゲーム。しかも第4Qの残り2分を切っても激しく動いた。

 ビルズは残り1分2秒で29―33とされながら、QBジョシュ・アレン(25)がその49秒後、WRゲイブリエル・デービス(22)に19ヤードのTDパスを成功。デービスはプレーオフ新記録となる1人で4つのTDをレシーブでマークした選手になった。アレンは「第4ダウン残り4ヤード」と「第4ダウン残り13ヤード」という危機的な状況に直面しながらTDを演出。スコアは36―33。残り時間は13秒しかなかった。

 直後のキックオフはタッチバック。チーフスは自陣25ヤードからのドライブだった。チーフスのファンはおそらく絶望感を抱いたはず。ところが過去2年連続でスーパーボウルでプレーしているQBパトリック・マホームズ(26)は極限的に少ない時間の中で19ヤードと25ヤードのパスを通してFG圏内に突入。そして残り4秒からのプレーでハリソン・バトカー(26)が49ヤードのFGを決めて36―36と追いつき、コイントスで勝って最初の攻撃権を得た延長でTDを奪って試合をひっくり返した。

 たった13秒。ビルズはこれを守れば勝っていた。パス守備で今季リーグ1位だったビルズにとってそれは難しいことではなかっただろう。しかもマホームズの2つのパスのどちらかを防いでいれば勝者と敗者は入れ替わっていた。

 このまさかの敗戦を受けて自分の気持ちを「GUT」に込めたのがマクダーモット監督だった。

 冒頭で紹介したフレーズの前に指揮官はこう語っている。

 「あれからビデオで何度もあの場面を見た。頭の中で100万回も思い浮かべた。胃の中でも100万回。いつかはいい思い出になるかもしれないが、たぶん心の中でもそして“GUT”の中でも、今後何年間にわたって見続けることになるのだろう」

 医師の方には「GUT」が消化管や腸、そして「はらわた」を意味していることはご承知だろう。手術に用いる縫合のための糸や釣り糸という意味もある。つまりマクダーモット監督にとっては「はらわたが煮えくり返る」という人生最大の悔恨を象徴する単語が「GUT」だったのである。

 海外のスポーツ原稿を書き始めて37年。「GUT」がテニスと医療と「OK牧場」以外の意味にたどりついたのは私にとっては初めてだった。そこに「物事の本質」という意味があることも初めて知った。

 マクダーモット監督はトーマス・ジェファーソンら3人の大統領を輩出しているバージニア州の名門、ウィリアム・メアリー大の出身。創立はハーバード大に次いで歴史の古い1693年で、米国内では最難関大学のひとつに挙げられている。セーフティーだった現役時代は学業優秀な選手を対象にしたアカデミック・オールアメリカに2年連続で選出されており、経営学で学士を取得。おそらくスポーツ界にいなくてもかなりの地位を築いていた人だ。

 ご本人はチームを勝利に導けなかった自分の情けなさにダメ出しをしたのだろうが、その言葉の中には指揮官らしい知性もにじみでていたように思う。

 そこに「直感」や「第六感」という意味があることを知ったことも勉強になった。はらわたが煮えかえるときがある日本人も、悔しさや怒りをこの部分で感じるところは同じ。言語は違えど、人間としての本質は同じだ。

 「IN MY GUT FOR YEARS」。さて13秒間を守り切れなかったマクダーモット監督にとってそれがいい思い出になるのはいつの日か?昨季もAFC決勝でチーフスに敗れているだけに、今度は「GUT」をありったけの複数形にして?無限の闘魂に変えなくてはいけないだろう。日本にもその名を背負いながら世界で戦ったボクサーがいたので、どん底から立ち上がって来る日を楽しみにしている。

 ◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。NFLスーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会には7年連続で出場。還暦だった2018年の東京マラソンは4時間39分で完走。

おすすめテーマ

2022年01月26日のニュース

特集

スポーツのランキング

【楽天】オススメアイテム