【内田雅也の追球】「1人野球」で開く未来――コロナ禍で思い出したい少年時代
2020年04月15日 08:00
野球
2002年7月28日(日本時間29日)、アメリカ野球殿堂があるニューヨーク州の美しく小さな村、クーパーズタウンで聴いた。当時はニューヨーク支局に勤め、マンハッタンから車で5時間以上かけて訪れた。村は全米からやってきたファンで埋まり、ホテルは1時間ほど離れたユティカにとって2泊した。
その日はオジー・スミス(元パドレス、カージナルスなど)の殿堂入り式典があった。現役時代、華麗な遊撃守備で「オズの魔法使い」の異名があった。会場の博物館裏の広場はもちろん、街中で流れていた。
映画では主人公の少女ドロシーがかかし、ブリキ男、ライオンと出会いながら旅をする。それぞれ知恵、心、勇気を示している。オジーは「ドロシーのように、多くの人に助けられて、わたしは今、ここにいる」と語って、涙をこぼした。
そして貧しかった少年時代を語った。6歳で移ったロサンゼルス近郊ワッツという町だった。
「グローブはスーパーの紙袋だった。毎日、1人で屋根にボールを放り上げ、落ちてくるところを捕まえて遊んだ」
この遊びを「ワンマン・ベースボール」(1人野球)と呼んだ。「そのうち目をつぶっていても捕れるようになった。大リーグの舞台を夢見るようになっていた」
「1人野球」は多くの野球人に経験があろう。壁や塀に投手としてボールを投げ当て、はね返ると野手となってさばく。オジーが夢を描いたように空想の世界を楽しむ。
何も有名選手に限らない。野球少年(少女)は誰でもやってきたことだ。たとえば、野球を愛する詩人・文芸評論家の平出隆は著書『白球礼賛』(岩波新書)で<ひとりぼっちの西鉄―南海>と書いている。<川沿いに縦に並んだ鉄筋コンクリート4階建てのアパートの、壁と壁のあいだでボールをぶつけて遊んだ。一人野球である>。空想のなかで、稲尾和久と杉浦忠の投手戦が展開されていた。
野球は団体競技だが、コロナ禍の今は集まるのは難しい。ならば「1人野球」を思い出したい。
阪神での現役時代、その華麗な遊撃守備で「牛若丸」と呼ばれた吉田義男は甲子園球場フェンスの壁当てでゴロ捕球を繰り返した。しかもデコボコのトタン板を敷き、不規則バウンドに備えた。入団当初の「失策王」が「名手」に生まれ変わった。自宅の庭にネットを張り、夫人にティー打撃のトスをあげてもらった。
本当の練習は1人でやるものかもしれない。自分との闘いだ。夢を育むのもまた個人練習だ。
ハワイのことわざ「ノー・レイン、ノー・レインボー」を早見優が話していたのを覚えている。雨が降らなければ、虹は見えない。孤独の練習に耐えた彼方に、輝く未来はある。 =敬称略=(編集委員)
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