【内田雅也の追球】「反対方向」への技と心 4発すべて左方向の阪神・佐藤輝の打法を考察

2021年03月15日 08:00

野球

【内田雅也の追球】「反対方向」への技と心 4発すべて左方向の阪神・佐藤輝の打法を考察
オープン戦<神・巨> 4回2死、佐藤輝は左越え本塁打を放つ (撮影・平嶋 理子)                                               Photo By スポニチ
 【オープン戦   阪神1-0巨人 ( 2021年3月14日    甲子園 )】 放った4本塁打がすべて左中間から左翼への反対方向というのは規格外である。阪神の大物新人、佐藤輝明(近大)の打撃を考えてみたい。
 14日の巨人戦(甲子園)で左腕・高橋優貴から放った4号は左翼ポール際だった。ファウルと判定されたが、リプレー検証で本塁打に覆った。

 本人は本塁打と確信していたそうだ。「切れない」感覚があったのだろう。反対方向への飛球は普通、ゴルフでいうスライスがかかり、外へと切れていく。だが、佐藤輝の飛球は左翼ラインのやや内側は真っすぐ飛び、ポール通過後に切れた。

 佐藤輝の左方向の打球は「右打者が引っ張ったような」と形容される。飛距離はその通りなのだが、弾道は外側に切れてはいかない。

 掛布雅之が言う「反対方向へフックする」打球である。現実にフックはしないが、スライスを抑える打法はある。「ボールの内側に(バットを)入れて、ボールの外をたたくというイメージ」と『打つ 掛布雅之の野球花伝書』(小学館文庫)にある。右翼から左翼に吹く甲子園の浜風を利用するために覚えた極意だそうだ。佐藤輝も掛布同様に右投げ左打ちだが、左手に「たたく」技術、あるいは力があるのだろう。

 まだ春浅く、この日は浜風ではなく、三塁側→中堅の北風、六甲おろしが吹いていた。浜風はいずれ必ず吹く。阪神の左打者は反対方向への打撃が成功のカギとなる。ランディ・バースは甲子園で放った通算91本塁打のうち34本(約37%)を左方向に放っていた。

 物理学的に書けば、この日のようなポール際の打球はよく伸びる傾向にある。1987―89年、ナ・リーグ専属の物理学者として研究を行ったロバート・アデアの『ベースボールの物理学』(紀伊国屋書店)に<一つ注目すべき興味深いことがある>と記されている。

 <バットのスピードは同じでも、センターの真正面へ飛んだボールより、ファウルラインの方へ飛んだボールの方が、いくぶん遠くへ飛ぶという事実である>。

 時速145キロの速球を同じスイングスピードで打った場合、センターへ122メートル飛ぶとすれば、左中間で123メートル、左翼ポール際で125メートルまで飛ぶというのだ。<ボールのスピードの水平成分は衝突によって逆向きとならず、打撃による損失がほとんどなく保存されるからである>。難しいが、角度によって力がより伝わるのだろう。

 しかも左中間、右中間は膨らみがあり118メートルと広い甲子園だが、両翼は95メートルと狭い方だ。“よく飛ぶ”ポール際打球を打つバットの角度を作れれば、強みとなろう。

 反対方向について、さらに右打者で<日本人は右方向へ打つのが難しい>と分析したのが広島で監督も務めた三村敏之だ。著書『「超二流」のススメ』(アスリート)で、のこぎりを「引いて」切る日本人と「押して」切るアメリカ人という<伝統的な意識の違い>を指摘したうえで<アメリカ人の「押し込む」意識の打撃だと、自然と右方向に打球が飛ぶ>。左打者なら左方向である。

 豪快なスイングや積極姿勢を「外国人のようだ」と称される佐藤輝は意識もアメリカ人風なのか。「反対方向」は英語の「opposite field」の直訳だろうが、本人に打球方向の意識などないのだろう。

 最後にもう一つ。この日は右翼で飛球を7個も処理し、最後まで出場してマウンド付近での勝利の輪にも加わった。オープン戦とはいえ、宿命の「打倒巨人」を果たした快感もあるだろう。佐藤輝にとって、本番に向けて、実に意義深い一戦となった。=敬称略=(編集委員)

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