【内田雅也の追球 解説・特別版】阪神オーナー交代 ライバル関係は“今は昔”年々強まる阪急の影響力
2022年12月10日 08:00
野球
阪神はオーナー就任直後の宮崎恒彰氏らが各球団を行脚して理解を求めた。球団の永続保有に関する「誓約書」と、HD、阪神電鉄、球団3者の「球団経営、人事は阪神電鉄で決める」との「合意書」を提出。手数料を除く29億円の支払いを減免された。コミッショナーだった根来泰周氏(故人)も06年10月12日、HD初代社長で現在の会長、グループ最高経営責任者(CEO)の角和夫氏(73)と面会している。法律の専門家だった根来氏は「支配権は移るが経営権は従来通り」と見解を示していた。
当時を踏まえれば、阪急出身の杉山健博氏(64)がオーナーに就くのはどうだろう。82年の阪急電鉄入社以来、阪急一筋できた。経営権の移行だと再論議の的になりはしないか。阪神上層部はいま、巨人など他球団上層部を訪ね、事情説明して回っている最中だ。06年の宮崎氏らの行脚を再び行っている格好だ。
阪急一筋と書いた杉山氏も16年6月には阪神電鉄取締役に就任。今年4月まで務めた。阪神電鉄の経営者でもあったわけで、詭弁(きべん)はともかく「合意書」に反しない。推測だが、杉山氏が阪神電鉄社長に就けば構図は従来通りだ。
今オフの岡田彰布監督(65)就任もHDの意向が反映されていた。退任を表明していた矢野燿大監督(54)に代わる新監督に球団が描いた原案は平田勝男2軍監督(63=当時・現ヘッドコーチ)の昇格だったが、藤原崇起オーナー(70=阪神電鉄会長)が承諾しなかった。
阪神では長く「監督選任はオーナーの専決事項」。藤原氏が拒んだ理由は岡田監督実現を望む角氏への忖度(そんたく)だったと阪急、阪神双方の幹部が明かしている。阪急の影響力は年々強まり、今や監督人事も阪神独自で決められない。
角氏は「阪急タイガースなどありえない。未来永劫(えいごう)、阪神タイガース」と語ってきた。言葉にうそはなかろうが、隠然と権力を示しているのは確かだ。
阪神は10日が誕生日、87歳になる。35(昭和10)年12月10日、球団設立総会が開かれた。ライバル阪神に先んじられた阪急創設者の小林一三翁は「(球団創設の)方針が漏れたか」と日記に記した。その阪急も88年に球団を手放した。時代は巡り、阪神の存在感が薄れゆくのはどこか寂しい。(編集委員)
◇内田 雅也(うちた・まさや)1988年(昭63)1月に初めて阪神担当。ニューヨーク支局での2年半を除き、32年以上阪神取材に関わる。阪神を追うコラムとして、2004年から『猛虎戦記』、07年から『内田雅也の追球』を執筆。コロナ禍で開幕延期となった20年4~5月、過去33代の監督を総括した連載『猛虎監督列伝』で監督交代劇も描いた。著書に『若林忠志が見た夢』(彩流社)がある。59歳。
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