求ム、名勝負。まだ見つかっていない井上尚弥の「生涯のライバル」
2022年06月11日 08:00
格闘技
井上が米誌リング・マガジンのパウンド・フォー・パウンド(PFP)で、前回までの3位から日本人初の1位に浮上した。それまで1位だったオレクサンドル・ウシク(ウクライナ)も2位だったテレンス・クロフォード(米国)も今年は試合をしておらず、このタイミングでの浮上は妥当だと感じたが、それでも「井上は1位ではない」と考える人々はビッグマッチ不足、つまりは対戦相手の質が物足りないという認識のようだ。ドネアは確かにビッグネームだが、対戦時点で井上の勝利が快挙あるいは番狂わせと呼ばれる力関係ではなかったのも事実だ。
井上がバンタム級で4団体統一を狙う最後の相手はWBO王者のポール・バトラー(英国)。失礼を承知で書くと、とても“ラスボス”には見えない。それでは、スーパーバンタム級に上げた場合はどうか。WBA&IBF統一王者ムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)、WBC&WBO王者スティーブン・フルトン(米国)はともに無敗で、井上もやり甲斐がありそうだが、いずれもビッグネームではなく、米メディアからも既に「ビッグマッチにはならない」と指摘されている。ビッグマッチ実現には、フェザー級まで上げるしか方法がないかもしれない。
ミドル級の村田諒太(帝拳)も海外メディアから対戦相手を疑問視されることが多かったが、誰もが知る名王者ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)との激闘で、実情に近い評価が定まったように思う。あまりに強すぎてスーパーフライ級時代から対戦を避けられることの多かった井上にも今後、「生涯のライバル」と呼べるような、正確な指標となりうる選手が現われるのだろうか。自身のキャリアを振り返った時、ピークを過ぎたドネアが一番のビッグネームだったというのではちょっと寂しい。PFP1位=世界最強と評価される井上だからこそ、まだ見ぬライバルと将来も語り継がれるような「名勝負」を演じてほしい。いや、そもそも「名勝負」にならないからPFP1位なのか。(ボクシング担当・中出 健太郎)