求ム、名勝負。まだ見つかっていない井上尚弥の「生涯のライバル」

2022年06月11日 08:00

格闘技

求ム、名勝負。まだ見つかっていない井上尚弥の「生涯のライバル」
井上尚弥 Photo By スポニチ
 井上尚弥(大橋)がノニト・ドネア(フィリピン)を衝撃的な2回TKOで下し、日本人初のボクシング世界3団体王座統一が大きな話題となった翌日。横浜市内の大橋ジムで開かれた会見で、大橋秀行会長は「事前にボクシング関係者がみんな“勢いはドネア”と言って盛り上げた分、インパクトが大きかったのでは」と分析していた。前回は試合中に右眼窩(がんか)底骨折を負いながらも最終的にダウンを奪って判定勝ち。「前回もケガがなければこの結果になっていたかもしれない」とも口にしていた。
 同感だった。各メディアは「世紀の再戦」「ドラマ・イン・サイタマ2」と名づけて試合前から盛り上げ、自分もその流れに乗って記事を書いていたが、「圧勝する」との確信があった。試合後に井上が「ドネアだったからこそ自分はここまで燃えることができた」と答えたとおり、対戦前から勝敗が分かるような相手ではなく、かつて憧れだった存在と2度も拳を交えたことが“モンスター”を成長させたことは間違いない。それでも冷静に考えれば、井上が前回と同じミスをするとは思えず、11月に40歳となるドネアに負けるビジョンは浮かばなかった。ドネアの全盛期の強さは知っているし、直近の2戦も確かに勢いがあり、かつ担当記者としてボクシングは何が起きるか分からないと痛感させられてきた上での話だ。

 井上が米誌リング・マガジンのパウンド・フォー・パウンド(PFP)で、前回までの3位から日本人初の1位に浮上した。それまで1位だったオレクサンドル・ウシク(ウクライナ)も2位だったテレンス・クロフォード(米国)も今年は試合をしておらず、このタイミングでの浮上は妥当だと感じたが、それでも「井上は1位ではない」と考える人々はビッグマッチ不足、つまりは対戦相手の質が物足りないという認識のようだ。ドネアは確かにビッグネームだが、対戦時点で井上の勝利が快挙あるいは番狂わせと呼ばれる力関係ではなかったのも事実だ。

 井上がバンタム級で4団体統一を狙う最後の相手はWBO王者のポール・バトラー(英国)。失礼を承知で書くと、とても“ラスボス”には見えない。それでは、スーパーバンタム級に上げた場合はどうか。WBA&IBF統一王者ムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)、WBC&WBO王者スティーブン・フルトン(米国)はともに無敗で、井上もやり甲斐がありそうだが、いずれもビッグネームではなく、米メディアからも既に「ビッグマッチにはならない」と指摘されている。ビッグマッチ実現には、フェザー級まで上げるしか方法がないかもしれない。

 ミドル級の村田諒太(帝拳)も海外メディアから対戦相手を疑問視されることが多かったが、誰もが知る名王者ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)との激闘で、実情に近い評価が定まったように思う。あまりに強すぎてスーパーフライ級時代から対戦を避けられることの多かった井上にも今後、「生涯のライバル」と呼べるような、正確な指標となりうる選手が現われるのだろうか。自身のキャリアを振り返った時、ピークを過ぎたドネアが一番のビッグネームだったというのではちょっと寂しい。PFP1位=世界最強と評価される井上だからこそ、まだ見ぬライバルと将来も語り継がれるような「名勝負」を演じてほしい。いや、そもそも「名勝負」にならないからPFP1位なのか。(ボクシング担当・中出 健太郎)

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