【ジャパンC】アーモンド100点 美しき最強の美少女
2018年11月20日 05:30
競馬
目は心を映す鏡と言います。ならば、このアーモンドアイ型の澄み切った瞳は何を映しているのか。イレーヌ嬢のような聡明(そうめい)さと素直さ、従順さ。そして、心のゆとりを映す穏やかさ。大抵の牝馬はレースを重ねるにつれて目がきつくなります。G1でしのぎを削れば、鬼女のようにとがってくる。ところが、この3冠牝馬は桜花賞前と同じ目をしている。絵画のように時を経ても変わらない造形。どこまでも余裕をたたえる神々しい瞳です。そこに従来の名牝の域を超えたスケールを感じずにはいられない。
目と連動して体にも余裕が生じています。しなやかな背中のライン、ふっくらした腹周り、厚みのある後肢(トモ)、力強い首差し、大きな肺や心臓を収容する牡馬のように深い胸…。秋華賞後に熱中症のような状態になって脚元がフラついたそうですが、そんな影響はどこにもありません。牝馬にしては顎も立派。しっかり食べられるのでしょう。前肢のつなぎには秋華賞時から着用している「ワンコ」と呼ばれるプロテクター。この馬具で後肢と前肢がぶつかる追突を防いでいます。後肢の踏み込みが深くなった証です。
ロードカナロア産駒らしいマイラー体形でも2400メートルに距離の壁があるとは考えづらい。サンデーサイレンス(母の父)譲りの柔軟な筋肉を身につけているからです。右トモの膝など球節の下部が少し外向していますが、体の軟らかさとトモの絶妙な角度で補っています。蹄も右前内側にエクイロックス(接着装蹄)を施して万全の備え。牝馬は晩秋を迎えると、牡馬よりひと足早く冬毛を伸ばして冬支度に入ります。でも、この3冠牝馬は冬毛も見せず、イレーヌ嬢の豊かな髪のような光沢を放っている。内面からにじみ出る輝き。一点の曇りもない体調です。
ルノワールがイレーヌの麗姿を描いたのは1880年。サラブレッドが走る芸術品だとすれば、アーモンドアイは…。3世紀をまたいでも色あせることのない「競馬史上、最強の美少女」です。(NHK解説者)
◆鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日生まれ、東京都出身の74歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70〜72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許取得、東京競馬場で開業。94〜04年に日本調教師会会長を務めた。JRA通算795勝、重賞はダイナフェアリー、ユキノサンライズ、ペインテドブラックなど27勝。