誤審問題から見えたサッカー界の課題

2019年06月02日 13:02

サッカー

誤審問題から見えたサッカー界の課題
<浦和・湘南>前半33分、誤審で幻のゴールとなった杉岡の左足シュート(撮影・篠原岳夫) Photo By スポニチ
 【大西純一の真相・深層】5月17日の浦和―湘南戦で、前半31分の湘南・杉岡のシュートがゴールと認められず、「誤審だ」と大きな問題となった。浦和が2―0とリードを広げていた場面だが、湘南が意地を見せて後半3点を奪い、逆転勝ちしたことでドラマが生まれ、誤審がクローズアップされた。
 日本サッカー協会の審判委員会は、主審と副審の1人を2週間の公式戦割り当て停止の処分を下した。さらにゴールの判定などを担当する追加副審の導入や、ゴールラインテクノロジーの早期導入にも言及した。だが、それだけで解決するのだろうか。

 サッカーは審判員がいないと試合ができない。主審は1試合で10キロ以上走り、ミスも許されない。以前、ベテラン審判員が「Jリーグの試合で主審を務めた後は、帰りの電車でよく乗り物酔いをした」と言っていたが、それぐらい体力も神経も使うという。その一方で、試合後選手に「ありがとう」と言われるのが最高の喜びで、そのひと言のために頑張るのだという。

 現在J1で笛を吹く1級審判員は約200人。しかしプロフェッショナル・レフリー(PR)は10数人で、あとは他に仕事をしながら審判員を務めている。審判で食べていける人は少ない。審判員になるには、まず4級を取得し、試合をこなして昇格テストを受け、3級、2級と上がっていく。1級審判員になるには早くても約5年はかかる厳しい道だ。しかも審判員を目指す人はそれほど多くはない。審判員の絶対数不足が審判員の質にも影響していると思う。

 審判員の育成は何十年も前から日本のサッカー界の課題だった。かつては岡野俊一郎さんも日本代表コーチや日本ユース代表監督になる前、国際審判員を務め、日本代表の試合の主審をしたこともあった。審判員になる人がいなかったので、「自営の岡野さんなら時間がある」と白羽の矢が立ったそうだ。日本リーグ時代の70~80年代にも審判員不足を解消するために、日本リーグのチームから一人ずつ出して、審判員を育成したこともあった。古河の塩屋園文一さん、日立の菊池光悦さん、日本鋼管の山田等さんはそうして審判員になり、長く活動した。

 近年JクラブがJ1、J2、J3とJリーグが拡大され、リーグ戦だけでも年間2000試合を越える。さらにルヴァン杯や天皇杯もあるし、JFLや地域リーグ、なでしこリーグ、大学や高校の全国大会もある。審判員の育成がサッカーが普及発展に追いつかないのが現状だ。

 テクノロジーといえば昨年のW杯ロシア大会でVAR(ビデオ・アシスタント・レフリー)が導入され、判定が覆るケースやPKが増えた。得点や勝敗に絡むシーンでの事実確認や審判の目をあざむくプレーが減ることは歓迎。既にプロ野球やテニス、大相撲でも映像による確認が導入されており、世の中全体の流れでもある。
 だが一方で、66年W杯イングランド大会決勝の延長戦でイングランドのFWハーストのシュートがバーに当たって真下に落ちたゴールは長年、議論を呼んだ。86年W杯メキシコ大会ではアルゼンチンのMFマラドーナの「神の手ゴール」も語りぐさになった。サッカーには微妙な判定から生まれたドラマがいくつもあり、人間が目で判定するあいまいさもサッカーの魅力となっているのもまた確かだ。

 今回は審判の技量がフォーカスされているが、選手や指導者と同じように、審判員も育成も真剣に考えなければ、サッカー界は発展しない。優秀な審判が育つように、サッカー界が全体で体系的な取り組みをするべきだろう。まずは審判員がどういうものか、もっと一般の人にPRすることが大事だと思う。そして日本サッカー協会やJリーグがプロ審判員を養成する学校をつくってもいい。選手のセカンドキャリアとして審判員という道も考えられる。こういうことがあったときこそ、行動を起こしてほしいものだ。

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