FA杯の魔法は健在だった
2021年01月14日 09:30
サッカー
長い歴史の中で8部のチームが3回戦まで勝ち残るのは今回が2度目という。新型コロナウイルス感染拡大を受け、英国政府が定める「エリートレベル」ではない下部はリーグ戦が中断され、リバプールを中心とする英国北西部のマージーサイド州クロスビーのマリーン本拠で組まれた一戦は無観客となった。
入場料収入を絶たれて広告スポンサー撤退にも見舞われたクラブは10万ポンド(約1400万円)の収入減となったが、クロスビー在住のリバプールOBで元イングランド代表DFジェイミー・キャラガー氏がスポンサーに名乗りを上げた。コロナ禍でマリーンの活動が制限された中、地元エリートクラブのエバートンが練習場を、リバプールはトットナムのビデオ映像など分析資料を提供したという。
極めつけはマリーンが無観客の穴を埋めるため、1枚10ポンド(約1400円)で売り出したくじ付きバーチャル入場券だ。1等には親善試合でマリーンを指揮する権利が用意された。これにトットナムのジョゼ・モウリーニョ監督が「俺は買う。1等が当たってもチームのプレシーズンがあるから指揮は執れないけど」とユーモラスに購入を宣言。トットナムのサポーターらも反応し、3万697枚ものチケットが売れた。
チェルシーやマンチェスター・ユナイテッドを率いた経験もあるポルトガル人のトットナム指揮官は「勝つことが最大のリスペクト。このレベルの相手とやったことはないが、3部や4部のチームとは何回も対戦した。イングランドの人間でなくても大会の価値は分かる。だからいいチームを連れてきた」と語った。控え中心とはいえ元イングランド代表ハートがゴールマウスを守り、今季リーグ戦で14試合に出場していた主軸のフランス代表MFシソコが先発。前レアル・マドリードのウェールズ代表MFベールも途中出場した。
無観客ながら競技場に隣接する住宅の裏庭には観戦者の姿もあった。8部クラブの本拠とあって芝の状態が懸念された中で「技術が高いトップ選手はどんなピッチでもプレーできる」と指揮官は語っていたが、イングランド代表MFアリは自軍ベンチ前で足を取られて転倒。控えだった韓国代表FW孫興民がベンチで笑いを抑えきれない姿も報じられた。
真剣勝負の中でもプレミアリーグと比べると、どこか牧歌的な雰囲気も漂った一戦は0―0の前半20分に配管工見習いでもあるマリーンのFWケンニがクロスバーを叩くシュートを放ったものの、トットナムはMFビニシウスのハットトリックなどで5―0の勝利。16歳163日で途中出場したMFディバインがクラブの史上最年少出場&得点記録を達成するおまけが付いた。
新型コロナの感染拡大を防止するために試合後の握手やユニホーム交換が許されなかった中、トットナムはユニホームを洗濯して送ると約束。マリーンのニール・ヤング監督はモウリーニョ監督やサポーターを含めたプレミアクラブ関係者に感謝の気持ちを示し「我々が大会で成し遂げてきたものに敬意を払ってくれた。ここまでの道のりはアマリーグで戦う我々にとって財政的な救命具にもなった」と感慨深げだった。
世界トップレベルの放送権収入を誇り、各国代表のスター選手がしのぎを削るプレミアリーグ。サッカーの母国でピラミッドの頂点に君臨するが、ディビジョンの垣根を越えた交流を生むFA杯という文化こそがイングランドのサッカーを支えているのではないか。
1999~2000年シーズンにはマンチェスター・ユナイテッドが世界クラブ選手権(現クラブW杯)に出場するためにタイトル防衛が懸かったFA杯への参加を見送り、サポーターの間で論議を呼んだことがあった。
世界王者の称号よりも国内カップ戦の方が大切―。そう思わせる魔力があるのだろう。(記者コラム・東 信人)
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