【レジェンズ・アイ】中村俊輔氏カタールW杯を総括 〝モロッコ戦術〟堅守速攻が今後のトレンド
2022年12月21日 05:00
サッカー
多くの人々が望んだと思われる結末に、現地で生観戦した俊輔氏も一人のサッカーファンとして喜んだ。
では、俊輔氏にとってはどんなW杯だったのか?
「2トップは減ったかな。一方で、やっぱり4バックが多かった。特に4―3―3が多くて、モロッコやカメルーンのように、点を取りにいく時に4―4―2に変形するチームが多く見られた」
戦術眼にたけた俊輔氏だけに、今大会の総括で真っ先に口にしたのは、やはり戦術やシステムだった。
実際、日本のように試合途中で4バックから3バックに変更したチームもあったが、4バックをベースとしたチームは、出場32チーム中24チームと、約7割に及んだ。中でも4―3―3は14チームと全体の4割を占めた。
「サイドに速い選手を配置して(相手布陣に対して)外回しで攻めるチームが多かった。理由は相手に簡単にボールを取られたくないから。そこから速攻の意識を高く持つ。それはサイドに速い選手がいるからこそ」
選手の特徴や細かい戦術には違いがあっても、サイド攻撃を中心に戦術を組み立てるチームが多かったと分析した。優勝したアルゼンチンも、決勝ではスピードのあるディマリアを3トップの左に配置。前半に2点のリードを奪って試合を優位に進めた。
俊輔氏はさらに「ボールを持っている方が、勝つ確率が低かったのでは?」とも指摘した。「やっぱりW杯って一発勝負だから、点を決めたら、ある程度、自陣に引く時間がある。ただし、それは決してネガティブな時間ではない。攻撃されているけど、点を取られるような攻撃ではないから。相手を焦らせたりする意味で、そういう時間帯を増やすのも有効」とみている。
アフリカ史上初の4強入りを果たしたモロッコが最たる例だ。「しっかり最終ラインと2列目の間をコンパクトにして(最終ラインの)4枚の前に5枚いるから、そこがフィルターになって、横ズレができる」。相手にボールを支配されても、4―5―1でしっかり守り、奪ったら素早い速攻を仕掛けることができる。
一方、日本がクロアチア戦などで適用した3バックだと、守備時に「最終ラインが5枚になって、前のフィルターは4枚になる」と指摘。「元々のシステムは3―4―3。1トップ2シャドーだから、(守備が5枚になったときの)両サイドは、守備が得意ではない選手が多くなる。モロッコやクロアチアのような4―5―1がベターだなって感じた」
実際、3バックになったときの日本は伊東、三笘ら攻撃的なドリブラーがウイングバックで起用され、守備時には5バックの両サイドとして守備に追われていた。もし最終ラインが4枚で守られていれば、三笘らはより前線で勝負ができ、速攻の威力が増すという見立てだ。
そして、俊輔氏が最後に改めてその重要性を指摘したのが、日本も決勝トーナメント1回戦でクロアチアに敗れたPK戦だ。
「日本がそうだったからかもしれないけど、PK戦の前に決めたかったというのは、相手も同じ。W杯では、PKの戦いも大きな差になるんだなと、改めて感じた」
自身もPKのキッカーとして活躍しただけに、その重要さは心得ている。
「キッカーはもちろん、PKが得意というGKを育ててもいいと思う。そうすれば強い相手との試合の残り5~10分で“PKに持ち込むぞ”というような戦い方もできる。例えばJリーグであればルヴァン杯とか天皇杯。高校サッカーもそうだけど、大会中だけでもPKの練習をやるとか。自分はキッカーだったから、普段から意識して練習していたけど。準備して負けたら、そこで初めて“運だった”と言えると思う」
決勝はそのPK戦を制したアルゼンチンが3度目の頂点に立った。指導者の道に進むことが決まっている俊輔氏も、多くの学びがあった大会となったようだ。=終わり=
◇中村 俊輔(なかむら・しゅんすけ)1978年(昭53)6月24日生まれ、横浜市出身の44歳。97年に桐光学園から横浜M(当時)入り。02年7月にレジーナ(イタリア)移籍。05年7月に移籍したセルティック(スコットランド)で数々のタイトルを獲得。09年6月にエスパニョール(スペイン)に移籍し、10年2月に横浜復帰。17年から磐田でプレーし、19年7月にJ2横浜FCに加入した。00、13年にJ1でMVP。日本代表は98試合24得点。W杯は06、10年に2度出場した。1メートル78、71キロ。利き足は左。
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