佐々木則夫氏 W杯に臨むなでしこジャパンを分析 海外組増加が生む世界一奪還への好循環

2023年06月27日 04:30

サッカー

佐々木則夫氏 W杯に臨むなでしこジャパンを分析 海外組増加が生む世界一奪還への好循環
W杯に臨むなでしこジャパンの展望を語った佐々木氏(撮影・篠原 岳夫) Photo By スポニチ
 サッカー女子W杯オーストラリア・ニュージーランド大会(7月20日開幕)に臨む女子日本代表「なでしこジャパン」は今回、過去最多となる9人の海外組が選出された。国内に復帰したMF猶本光(29=三菱重工浦和)、FW田中美南(29=INAC神戸)を含めれば11人。海外での経験は選手の成長、プレーの変化にどのような影響を及ぼすのか。監督として11年W杯ドイツ大会でチームを世界一に導いた現日本協会の佐々木則夫女子委員長(65)が分析した。きょう27日からW杯に向けた合宿が千葉県内でスタートする。
 選ばれたメンバー23人のうち、海外のクラブに所属する選手は9人。海外から国内に復帰した選手も含めれば11人に上る。11年W杯で日本が世界の頂点に立ったときは4人ということを考えれば、ここ10年余りで飛躍的に増えたことになる。佐々木委員長はまず、大きなメリットを指摘した。

 「ゲームの中でのタフさが違う。日本人同士で対戦する時とはタックルなどのチャージの深さが違う。こんな時にこんな当たりはしないだろうと。海外で海外の選手と戦うと、そういう部分が違ってくる」

 海外での成長ぶりは、国内に復帰した選手を見れば明らかだ。例えばMF猶本は18年6月に浦和からドイツのフライブルクへ移籍し、20年1月に浦和へ帰還。そのプレーぶりが鮮烈だったという。

 「守備の時のチャージが深くなった。体も大きくないので、以前はチャージも軽かったし、守備で行く時と行かない時があった。それがドイツでプレーしてチャージのタイミングが良くなり、しっかりボールが奪えるようになった。海外に行ったことでそういうところを感じることができた」

 ドイツのレーバークーゼンに移籍し、神戸に復帰したFW田中についても進歩を感じたという。「ターゲットプレーがうまくなって帰ってきた」。なでしこには少ないタイプだけに、田中の成長は大きな戦力になったとも分析する。もちろん、その成長の理由には、ポジション争いという基本的な競争もある。

 「WEリーグなら代表クラスはみんな所属チームでエース級で、自分中心になる。でも海外に行くと、簡単には認めてもらえない。意思疎通の巧みさや、気持ちの強さなども認められないと駄目で、精神的にも強さが求められる」

 池田ジャパンを見ても、国内組は一つミスをすると尾を引くことがあるが、海外組は1つ2つのミスは気にしないということが見て取れるという。

 一方で、デメリットもある。例えば守備。日本はマンツーマンとゾーンを併用してマークを受け渡す守り方が一般的だが、欧州は徹底的に食らいつくスタイル。11年のW杯優勝メンバーの熊谷は、その後、浦和からリヨンに移籍したが、相手FWを深く追ってしまい、DFとボランチがマークを受け渡す日本のやり方を思い出すのに少し時間がかかったという。

 また、エースストライカーだった永里優も、ドイツのポツダムではストライカーで、ゴール前でシュートに専念すれば良かったが、日本では守備も求められた。「分かっていても体が動かず、周囲と合わなくなる場面があった」と振り返る。それでも、W杯や親善試合でしか海外選手を感じることができない国内組に比べ、日常的に多くの国の選手と対戦し、チームメートとしても一緒に練習する海外組の“慣れ”は、代え難いという。

 11年W杯の優勝後、日本協会は「海外指定選手制度」を導入している。海外に行っても報酬が安く、生活も厳しい状態では簡単にチャレンジできない。そこで海外へ移籍した選手に協会が補助金を支出する制度を導入した。これまで21人の選手が活用した制度が、今回のチーム構成に結実したともいえる。

 WEリーグでは簡単にボールが持てても、国際試合になるとそうはいかない。「強度の高いところでやれば、日本で身に付かないことが身に付いたはず」と残念に思った選手もいた。海外移籍を勧めた選手の中には、WEリーグのレギュラーで、リスクのある決断を無理強いすることができないこともあった。

 素材的には若くていい選手が多いというなでしこジャパン。海外組の増えた今大会の結果次第では、今後の海外移籍が増える可能性がある。より高いレベルのなでしこをつくり上げるために、分岐点の大会となりそうだ。(大西 純一)

 ≪“1次Lは余力残して”監督の管理能力不可欠≫W杯で結果を出す難しさを佐々木氏は熟知している。開幕戦から飛ばすより、「1次リーグは力を入れすぎず、力をキープしながらコンディションを上げていけば、交代で入る選手が化学反応を起こして、決勝トーナメントに入りやすい」という。大会期間も長く、途中から調子を上げる選手も必要で、池田監督のマネジメントが不可欠となりそうだ。

 ◇佐々木 則夫(ささき・のりお)1958年(昭33)5月24日生まれ、山形県尾花沢市出身の65歳。帝京ではDFとして活躍して高校総体優勝。明大を経て社会人関東リーグの電電関東(現J2大宮)に入社しリベロなどで活躍した。現役引退後は大宮監督などを経て07年になでしこジャパン監督に就任。11年W杯ドイツ大会優勝、12年ロンドン五輪銀メダルに導いた。大宮のトータルアドバイザー、十文字女子大副学長を経て現在は日本サッカー協会女子委員長。

おすすめテーマ

2023年06月27日のニュース

特集

サッカーのランキング

【楽天】オススメアイテム