進化するAI内視鏡 良性or悪性の判定&必要な治療の選択 次世代健康システム開発中

2023年10月23日 05:00

社会

進化するAI内視鏡 良性or悪性の判定&必要な治療の選択 次世代健康システム開発中
AI内視鏡の診断画像。がんの可能性が何%かがリアルタイムで表示されます Photo By 提供写真
 がん治療の最前線、米国で働く日本人医師が現場から最新の情報を届ける「USA発 日本人スーパードクター これが最新がん治療」。テキサス州ヒューストンにある米がん研究最大の拠点「MDアンダーソンがんセンター」で治療に取り組む小西毅医師による第12回は、開発が進むAI内視鏡についてです。
 ◆胃がん診断AI 世界で初めて日本が開発成功◆

 医療の現場でもAIの実用化は急速に進んでいます。先日、私の勤めるMDアンダーソンがんセンターに、AI内視鏡の開発を手がける日本のベンチャー企業「AIメディカルサービス社」のCEOが来院し、内視鏡ユニットの責任者や私と一緒に、国際共同開発へ向けたミーティングを行いました。現在MDアンダーソンで使用されている内視鏡には、すでにAIが搭載されています。画面内にポリープなどの病変が映ると、自動的にAIが識別して見落としを防ぐのです。内視鏡医が行った実際のデモンストレーションでは、2ミリほどの小さなポリープが画面内に映った瞬間、ポリープを囲うように小さな四角が表示され、「ここに何かある」と一目で分かります。

 しかし、病変を検知することはできても、その病変が良性か悪性(がん)か、などの診断情報は一切表示されません。言い換えると、そこに何かある、と教えてくれるだけで、何があるのか、どんな治療が必要なのか、はまだまだAIでは判別できないのです。私たちは今、さらに一歩進んでそのような情報を与えてくれるAI診断システムの開発を進めています。

 AIメディカルサービス社のCEO多田智裕氏は、世界で初めて胃がんの内視鏡診断を行うAIシステムの開発に成功しました。胃がんは大腸がんのような盛り上がったポリープでなく、平たくて周囲との境界が分かりにくい病変が多くあります。当然見落としも多くなりますし、良性の潰瘍や炎症との区別も簡単ではありません。

 このような内視鏡診断の難しい胃がんですが、実際のAI診断システムを多田氏にMDアンダーソンで見せてもらいました。デモンストレーションでは、内視鏡の画面に映し出された病変をAIが自動判定し、病変ががんである可能性が85%、などの情報を瞬時に与えてくれます。内視鏡医にとっては、この情報を参考にしながら、次のステップとして病変を生検するか、内視鏡で切除するか、などの処置を正しく選択できます。

 車の運転でカーナビがさまざまな道路情報を与え、運転手に最適なルートをすすめてくれるように、医療の世界もAIの補助でより効率よい診断、治療が可能となるのです。

 ◆「教師データ」の膨大な量と質が完成度高める◆

 胃がんのAI診断システムが世界で初めて日本で開発できた背景には、日本が胃がんの症例の数が多いこと、内視鏡医の診断レベルが高いことが関係します。AIというのは、膨大な情報をひたすら集め、正解のパターンを繰り返していくことで、学習し正確な答えを学んでいきます。この「教師データ」の量と質ができあがるAIの質を決めるのです。

 医師個人が一生で経験するよりも、はるかに多い何万例という胃がんや良性病変の内視鏡画像を短期間で学習するために、胃がんの症例の多い日本は最高の環境でした。さらに、日本の内視鏡専門医は世界一レベルが高く、病変を見つけると正確に隅々まで観察し、拡大したり色素をまいたりして特徴を詳細に見ます。この詳細で膨大な画像情報を、画素数の高いデジタル動画情報としてAIに学ばせることで、人が肉眼で見るよりもはるかに多い情報に基づいてAIが診断できるようになるのです。

 日本から生まれたAIメディカルサービス社の胃がん診断システムは、エキスパートの内視鏡専門医と同等の診断能力が証明されています。経験の少ない医師でも、AIシステムを使うことで、より自信を持って正確に診断できるわけです。

 大腸がんの領域では、すでに他社で開発された初期のAI診断システムが、ヨーロッパなどで臨床応用されています。しかし、残念ながら現時点では満足な診断能力はありません。より正確で臨床に安全に使用できるAIシステムを開発するため、MDアンダーソンでは日本や米国、さらに世界中から膨大な内視鏡画像を集め、次世代のAI診断システムを開発する計画を進めています。

 ◆間違っていた時 責任の所在が今後の問題点に◆

 画像認識はAIが最も有効で得意とする分野です。今後、内視鏡や放射線画像(CTやMRIなど)はAIが最も応用される分野となっていくでしょう。病変の見落としを防ぎ、より詳細な診断と効率よい治療選択を行うことはもちろん、抗がん剤による治療効果の判定など、広い範囲でAI診断が応用されていくでしょう。

 一方で、最新テクノロジーを駆使した飛行機でもパイロットが必要なように、AI診断だけでは責任ある診断はできません。AIから得た情報も参考にしつつ、最後に責任を持って診断するのは医師自身です。飛行機も悪天候や複数のミスが重なれば墜落するように、医療行為も難しい状況で判断ミスが重なれば重篤な結果につながります。米国は訴訟社会ですので、AIによる診断が間違っていた場合の責任の所在をどうすべきかなど、倫理的、法律的な難しい問題も指摘されています。


 ◇小西 毅(こにし・つよし)1997年、東大医学部卒。東大腫瘍外科、がん研有明病院大腸外科を経て、2020年から米ヒューストンのMDアンダーソンがんセンターに勤務し、大腸がん手術の世界的第一人者として活躍。大腸がんの腹腔鏡(ふくくうきょう)・ロボット手術が専門で、特に高難度な直腸がん手術、骨盤郭清手術で世界的評価が高い。19、22年に米国大腸外科学会Barton Hoexter MD Award受賞。ほか学会受賞歴多数。

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