歯周病菌が大腸がんを進行させる? 悪玉菌フソバクテリウム 感染量が多いほど生命予後が悪くなる報告も

2024年01月22日 05:00

社会

歯周病菌が大腸がんを進行させる? 悪玉菌フソバクテリウム 感染量が多いほど生命予後が悪くなる報告も
大腸がんに影響を与える細菌フソバクテリウム
 がん治療の最前線、米国で働く日本人医師が現場から最新の情報を届ける「USA発 日本人スーパードクター これが最新がん治療」。テキサス州ヒューストンにある米がん研究最大の拠点「MDアンダーソンがんセンター」で治療に取り組む小西毅医師による第17回は「腸内細菌と大腸がんの関係」についてです。
 【腸内細菌と大腸がんの深い関係】

 近頃の健康ブームで「腸内環境を整える」ことの重要性が注目されています。積極的に腸内細菌のバランスを整え、スムーズな便通と健康を保つ「腸活」といった言葉も一般的になりました。この腸内細菌、実は大腸がんの発生や進行にも深く関わっていることが最新の研究で分かってきました。本日は研究が進む腸内悪玉菌と大腸がんの関係について解説します。

 1980年代にピロリ菌が発見され、その後の研究で胃がんの主要な原因であることが解明されました。同じように大腸がんでも、ここ10年ほどの間に腸内細菌との関連を調べる研究は急速に進んでいます。大腸がんの患者さんの排便やがん組織を調べていくと、フソバクテリウム・ヌクレアタムという細菌が健康な患者さんの腸内よりも多く増殖していることが分かりました。

 このフソバクテリウムは元々、歯周病菌として知られている口腔(こうくう)内細菌です。フソバクテリウムが大腸に棲みつくと腸内で炎症を起こし、がん抑制メカニズムを邪魔して発がんに関与します。またフソバクテリウムは大腸がんの発育、進行を早めることも知られています。大腸がんは抗がん剤や放射線治療が比較的効きやすいですが、フソバクテリウムが感染すると、抗がん剤や放射線治療が効きにくくなります。このようにフソバクテリウムは大腸がんの発生、進行、治療効果などさまざまな面で悪影響を及ぼします。フソバクテリウムの感染量が多いほど大腸がんの生命予後が悪くなることも報告されています。

 【フソバクテリウムを減らす試み】

 大腸がんの若年化は近年の深刻なトピックですが、私たちMDアンダーソンの最新の研究論文によれば、若い患者さんと高齢の患者さんでは、大腸がんに存在する細菌の種類が大きく異なります。特に若い大腸がんの患者さんでは、フソバクテリウムや類似の口腔内細菌が密接に抗がん剤や放射線治療の効きと関連していることが示されました。この結果は医学界を超えて「Wall Street Journal(ウォールストリート・ジャーナル)」でも記事になり、全米で注目を集めています。

 胃がんは昔は日本人のがん死亡数で断トツでしたが、胃がんの主要な原因であるピロリ菌を除菌することで年々減り続け、今では肺がんや大腸がんよりも少なくなりました。大腸がんは腸内細菌以外にも遺伝子や免疫・炎症システムなど、さまざまな要因が複合して関与するため、フソバクテリウム1種類だけで発がんやがんの進行をコントロールできるものではありません。しかし、研究はまだ始まったばかりですが、フソバクテリウムを除菌することで大腸がんの予防や治療につなげられないか、さまざまな試みがなされています。

 フソバクテリウムは、ごく一般的で副作用も少ないメトロニダゾールという抗生物質で除菌できます。これを投与することで大腸がんの進行を遅らせ、抗がん剤や放射線治療の効果を高められることが動物実験で示され、人での臨床試験が計画されています。

 【西洋型の食事の見直し+サプリ】

 元々は歯周病菌ですから、歯周病を積極的に治療することで大腸がんの治療効果を高められる可能性も示されています。動物実験レベルですが、健康なマウスの糞便(ふんべん)を大腸がんのマウスの腸内へ移植し、積極的に腸内細菌を整えることで大腸がんの進行を遅らせる「糞便移植」という過激な方法も開発されています。

 フソバクテリウムをはじめとする口腔内細菌が腸内で増えやすい環境として、脂肪が多く繊維の少ない西洋型の食事が挙げられています。食事療法や腸内環境を整えるサプリメントをいくつか組み合わせ、善玉菌を増やしてフソバクテリウムなどの悪玉菌を減らすことで、大腸がんを予防できないか、さまざまな研究がなされています。近い将来研究が進めば、ひょっとすると「がん予防ヨーグルト」のような革命的な健康食品が開発される日が来るかもしれません。


 ◇小西 毅(こにし・つよし)1997年、東大医学部卒。東大腫瘍外科、がん研有明病院大腸外科を経て、2020年から米ヒューストンのMDアンダーソンがんセンターに勤務し、大腸がん手術の世界的第一人者として活躍。大腸がんの腹腔鏡(ふくくうきょう)・ロボット手術が専門で、特に高難度な直腸がん手術、骨盤郭清手術で世界的評価が高い。19、22年に米国大腸外科学会Barton Hoexter MD Award受賞。ほか学会受賞歴多数。

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