国籍、性別、年齢…最先端医療を支える多様性 垣根越え技術交流

2024年02月05日 05:00

社会

 がん治療の最前線、米国で働く日本人医師が現場から最新の情報を届ける「USA発 日本人スーパードクター これが最新がん治療」。テキサス州ヒューストンにある米がん研究最大の拠点「MDアンダーソンがんセンター」で治療に取り組む小西毅医師による第18回は「多様性を武器とする米国の最先端がん治療」についてです。
 【世界中から人材が集結】
 米国は世界で最も多様性に富み、さまざまな人種、国籍の人が集まる社会です。自由と機会平等を重んじる社会では、性別や年齢に関係なく能力の高い人、やる気のある人に多くのチャンスが与えられます。全米一のがん専門病院であるMDアンダーソンがんセンターでは、才能あふれる若いリーダーや女性医師、外国人医師、定年のない高齢医師たちが、垣根を越えて協力し、最先端のがん治療、研究を行っています。本日は多様性を活用して最前線で世界をリードする米国のがんセンターの様子を解説します。

 MDアンダーソンには世界中から医師や研究者が集まります。MDアンダーソンの廊下やカフェテリアでは、さまざまな人種が集い、英語だけでなくスペイン語、中国語、ベトナム語、ヒンディー語(インド語)などが聞こえてきます。まるで空港で働いているようです。私自身、今は外国人外科医として働いていますが、それまで米国での臨床経験は全くなく、日本で20年以上外科医として働いた後にMDアンダーソンへスカウトされました。

 日本では外国人が医師免許を取るのは非常にハードルが高いですが、米国の医師免許は外国人に寛容です。実績さえしっかりしていれば、更新期限つき医師免許が発行されます。外国大学出身でも医師国家試験を受けられるので、永久医師免許も取ることができます。

 野球のメジャーリーグでたくさんの外国人選手が活躍しているように、米国の文化は積極的に海外の人材を取り入れ、チームの力にしていく風土があります。私が行う日本式のきめ細かいロボット手術や内視鏡診断は、米国の外科医にとっては新しい技術です。日本の技術が役立つ症例があれば、同僚の米国人外科医たちは私を手術に呼び積極的に学んで取り入れようとします。難しい手術を米国人と合同で行い、言語の壁を越えて技術、知識を共有し患者を救うのは、日本では味わえない大きな喜びです。外国人医師による技術の国際交流が、米国の先端医療を支えていることは間違いありません。

 【女性外科医比率急上昇】
 外科は歴史的に男性の比率が高い分野です。日本における女性外科医の比率はわずか7%。一方、女性の社会進出が進む米国では、近年急速に女性外科医の比率が上昇し、研修医など若手外科医の男女比率はほぼ同数です。学会でも女性は要職を占め、例えば米国腫瘍外科学会の現会長は、MDアンダーソンの女性外科医Dr.Kelly Huntです。

 MDアンダーソンの女性外科医を見ていると、驚くほど長時間ハードに働きます。女性にとって大きなハードルとなる出産、子育てですが、出産後2~3カ月で赤ちゃんを保育所へ預けて職場復帰します。産後授乳中の研修医と手術する機会がありましたが、「赤ちゃんのため母乳を数時間おきに搾乳しなければならないので、すみません」とタイミングの許すところで手術を抜け、翌日に赤ちゃんが飲むミルクを搾乳しながら、朝から晩まで働いていました。

 体力を消耗する子育てと外科の仕事を両立させるのは大変なことです。髪の毛を振り乱しながら懸命に働く姿を見て、頭が下がる思いでした。米国人女性の高い自立心とプロ根性、そして男性以上にハードに働く厳しい覚悟を感じました。

 【ベテランと若手の融合】
 米国は能力主義で、若くても高齢でも実力があればトップに抜てきされます。私のいる大腸外科のトップ、Dr.George Changや、遺伝性大腸がん部門のトップであるDr.Nancy Youは、いずれも40代半ばで就任しています。

 一方で、米国には定年がありません。60代、70代でも元気で実力があればずっと第一線で働けます。ベテラン外科医の長年の臨床経験に基づく技術と知識は、貴重な財産です。若い医師は最新の技術と知識を駆使しますが、難しい症例、珍しい症例ではベテランの経験がものをいいます。年齢の垣根なくお互いを補い合い、潤滑油のように機能しています。

 日本では、外科医は深刻な人手不足に悩まされています。日本の外科は縦割りの徒弟制度と年功序列が根強く残り、女性外科医をサポートするシステムも未熟です。米国で第一線で働く女性外科医や高齢外科医の生き生きした姿を見ていると、そこに日本が見習うべきシステムがたくさんあると感じます。

 ◇小西 毅(こにし・つよし)1997年、東大医学部卒。東大腫瘍外科、がん研有明病院大腸外科を経て、2020年から米ヒューストンのMDアンダーソンがんセンターに勤務し、大腸がん手術の世界的第一人者として活躍。大腸がんの腹腔鏡(ふくくうきょう)・ロボット手術が専門で、特に高難度な直腸がん手術、骨盤郭清手術で世界的評価が高い。19、22年に米国大腸外科学会Barton Hoexter MD Award受賞。ほか学会受賞歴多数。

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