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横綱・白鵬も称賛!「引退」を口にしなかった若の里のプロ意識

2015年09月05日 09:45

相撲

横綱・白鵬も称賛!「引退」を口にしなかった若の里のプロ意識
巡業で現役最後の取組を終えて、稀勢の里(左)から花束を贈られた若の里
 何もそこまでしなくても…。この1カ月間、何度思ったことだろう。今月3日に引退を正式発表した大相撲の元関脇・若の里(現西岩親方)に対してだ。
 若の里は7月の名古屋場所を4勝11敗で終え、十両から幕下に陥落することが確実になった。その時点で現役を退く意思を固めていた。しかし、「現実を受け入れないといけない」と語るにとどめて、かたくなに「引退」の二文字は口にしなかった。同期の旭天鵬(現大島親方)が幕内から十両に転落し、早々と引退を表明したのとは対照的だった。

 理由は8月に地元の青森で開催される巡業に参加するためだった。相撲の世界では一度「引退」を口にしてしまえば、現役力士でいられなくなる。かつて横綱・大鵬や人気力士だった小錦は場所中に引退の意向を明かしてしまい、「相手力士に失礼」と批判されて、場所の最後まで相撲を取ることが許されなかった。

 だが、今回は本場所ではなく、巡業だ。もし若の里が引退表明したとして、周囲は巡業参加を拒否しただろうか。実際、日本相撲協会の尾車巡業部長(元大関・琴風)は「巡業部では、引退しても本人が行きたいなら、連れて行こうと話をしていた」と後日語っていた。それでも、若の里は相撲界の伝統に従って、先日の正式発表まで「引退」という言葉を使わなかった。そればかりか引退発表1週間前に行われた健康診断にも参加し、「現役力士」として行動し続けた。

 巡業中の8月17日夜には父・古川善造さんを心筋梗塞で亡くす悲しい出来事があった。一刻も早く父の元に帰りたかったはずだ。それなのに「オヤジより巡業優先です」と言って、翌18日の秋田での巡業も参加した。夜に青森県弘前市の実家に立ち寄って、無言の対面を果たしたものの、すぐに巡業の一団に合流。同19日の青森・八戸、翌20日の青森・野辺地と予定通りに最後まで巡業に参加し続けた。そんな姿を見て、横綱・白鵬は「オヤジさんが亡くなって、(巡業参加を)やめてもいいと思うけれど、最後まで参加した。プロ意識が凄い。見本となる人です」と言って頭を下げた。

 若の里ほど律儀で真面目な男はそうはいない。引退会見で今後の相撲界に望むことを聞かれると、こう言った。「ただ土俵の上で勝つだけでなく、稽古場でも私生活でも真面目に取り組む力士が1人でも多く出てきてくれたらと思います」。私も若の里のような力士を1人でも多く取材できたらと思っている。(柳田 博)

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