桐生 自己ベストタイ10秒01 9秒台あと半歩「うれしさ悔しさ半々」
2016年06月12日 05:30
陸上
9秒台に再び肉薄した。男子100メートル準決勝4組で、桐生祥秀(20=東洋大)が追い風1・8メートルの好条件下で、10秒01をマーク。13年4月に出した日本歴代2位の自己記録に並ぶとともに、日本陸連が定める8月のリオデジャネイロ五輪の派遣設定記録(10秒01)を突破した。決勝は10秒10で制して優勝。日本選手権(24~26日、愛知・パロマ瑞穂スタジアム)で9秒台を叩き出し、日本最速を証明する。
低い姿勢から飛び出した桐生が、序盤から独り旅に入った。両足の高速回転は中盤以降も衰えないまま「スーッと行った感じ」でフィニッシュラインを駆け抜ける。計時されたタイムは3年ぶりの10秒01。感嘆と落胆のため息が入り交じるトラックを、ワンダーボーイは涼しい顔で流した。
「10秒01をもう一回は飽きたというか、どうせならもう少し速くあってほしかった。うれしさ50、悔しさ50。半々です」
湘南の風を味方に付けた。舞台となったShonanBMWスタジアム平塚は、太平洋岸から約4キロ北に位置する。直線走路は南北軸とほぼ平行で、程よい海風が常時トラックを吹き付ける。大会主催者は「風向きを考慮して」、この日の100メートル走路を南から北へと延びるバックストレートに設定。今季ここまでの7レース全てで向かい風に泣かされた桐生だが、予選から追い風1・2メートルを背に受けて10秒17の大会新記録。好タイムの予感は漂っていた。
日本最速のスピードを生むのは、京都・洛南高時代の恩師、柴田博之氏が「あの高速の足の回転は類いまれ」と評する超高速ピッチ走法にある。山県(セイコーホールディングス)の2着に敗れた5日の布勢スプリント(コカ・コーラウエストスポーツパーク陸上競技場)では後半に上体が反る悪癖を露呈。体の軸がぶれ、力強い足の蹴りが生む推進力が上体に伝わり切らずに失速した。
東洋大の土江寛裕コーチはこの1週間、桐生が高校時代に取り組んでいたミニハードルを、縦に素早くステップする練習を反復させ、レースでは中盤以降にこの動きを意識させた。当初は「(歩幅が)狭くなると思った」という桐生だが、動画を見て悪癖が解消され、本来のピッチ走法ができていることを確認。準決勝では60メートルから「前で(ピッチを)刻む」走りが3年ぶりの快記録を生んだ。それでも「記録を出す準備をしてない。日本選手権に向けての質の高いトレーニングが目的」と土江コーチ。伸びしろはたっぷり残されている。
決勝は突如として0・3メートルの向かい風に見舞われた上、スタート直後につまずくアクシデント。それでも10秒10をマークした桐生にもはや恐れるものはない。「陸上をやっている以上は日本最速は自分だと言われたい。9秒台で優勝が一番いい」。日本陸上界に新しい歴史を刻む。その細い目には決意がみなぎっていた。
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