高谷惣亮“クワガタ・タックル”は驚異の柔軟性+パワーが成せる業
2016年06月15日 10:30
レスリング
タックル王子と呼ばれてきた男も27歳。「“おうじ”じゃなくて“おぅじさん”になっちゃいました」と普段通りにちゃらけて笑った。確かにもう王子と呼ばれる年ではないかもしれない。14年世界選手権の銀メダリスト。2度目の挑戦となるリオ五輪では、日本男子の看板と期待を背負う立場になるからだ。
日本男子レスリングは、52年ヘルシンキ五輪以降(80年モスクワを除く)の15大会、実に半世紀以上にわたってメダルを獲得し続けてきた。しかし今回は最大の危機。階級数がフリースタイル、グレコローマンとも各8から6に減った影響もあり、出場権を獲得したのは両スタイル合わせて4人のみ。ヘルシンキ以降で最少となった。
メダルの伝統をつなぎとめることができるのか。「日本だったら(他の階級も含めて)一番強い自信はある」と“パウンド・フォー・パウンド”を自負する高谷と彼が得意とするタックルの出来にかかっている。「タックルに入る時の速さは海外の選手を含めても僕がトップクラスだと思う。足を触ってからの得点能力は高いですよ」
さまざまなバリエーションがある中でも、独特なのが「クワガタ型」と呼ぶバージョンだ。両足タックルのセオリーは懐に飛び込み、胸を相手の下半身に押し当て、しっかりと力を伝えて刈り倒す。クワガタ型はそこから大きく外れている。
タックルに入ろうとして上からつぶされ、頭は下がり、辛うじて両手でしがみついているだけ。タックルは切られて失敗に終わった。はた目にはそう映る。ところが、ここからが本番だ。臀部(でんぶ)のふくらみに両手をかけて相手の下半身をロック。そこを支えにして、両足でぐっと踏み込んでいく。つぶれた状態からぐいぐいせり上がり、にじり寄る。そう、まさに敵に襲いかかるクワガタのように。
「一回切られている状態で取りにいく。タックルのセオリーからいえば全く駄目なパターンですよね。でも僕はそこからの方が取りやすい」
14年世界選手権代表でもある保坂健(自衛隊)は、同階級の高谷に合宿でレクチャーを受けたがまねできなかった。「頭をあそこまで入れた状態でどうやって力を出すのかが難しい。肩周りの柔らかさがないとできない。深くキャッチするために手の大きさも必要」。飛び込んだ勢いが完全に殺されているため、それを補う爆発的なパワーも求められる。高谷は「背中とお尻で」そのエネルギーを生み出しているという。
◆高谷 惣亮(たかたに・そうすけ)1989年(平元)4月5日、京都府網野町(現京丹後市)生まれの27歳。網野高―拓大―ALSOK。空手をやっていたが、兄弟の影響で小6からレスリングを始める。12年ロンドン五輪は初戦敗退。※14年世界選手権は銀メダルを獲得し、対戦相手から熱湯を頭にかけられたことも話題に。全日本選手権は11~15年に5連覇、全日本選抜選手権は13~15年に3連覇。趣味はスイーツ巡り、マンガ&アニメ観賞。1メートル77。
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