NBA選手に適用された事実上の共謀罪 キャンターの過酷な現実
2017年06月06日 09:30
バスケット
だが、これが予期せぬ事態を招く結果になった。キャンターは先月、ルーマニアを訪れた際に「旅券が失効扱いになっている」として入国を拒否され、やむなく英国ロンドンを経由して米国へUターン。トルコ政府は海外にいるギュレン師の支持派に対して圧力をかけるために旅券を一斉に失効扱いにしていると伝えられており、キャンターにもその手が及んだのだった。
「彼(エルドアン大統領)は21世紀のヒトラーだ」という批判はさらにトルコ政府を怒らせたようで、今度は父メメット氏がイスタンブールの自宅で当局に身柄を拘束され、遠く離れた審問所へ移送。キャンターとメメット氏は政治的問題が原因でここ数年は絶縁状態で、本来なら今回の一件とは何の関係もなかったはずだが、トルコ政府にとってはキャンターに圧力を加えるためのターゲットになったようだ。
審問所では取り調べの上で逮捕か釈放が判断されるが、キャンターは「父は拷問される可能性がある」と事態を憂慮。さらに「たとえ出産を終えたばかりの女性であっても、ギュレン師支持派の家族であれば逮捕されている」と母国の窮状を訴えており、トルコ国内の政情不安はおだやかなものではない。
今、キャンターは米国籍の取得を希望している。永住権(グリーンカード)は持っているが無国籍では世界のどこにいても生きていくことはできないからだ。しかし取得までには数年かかるとみられており、NBA生活を送る上でも不自由な環境に置かれることになった。だからといって失効扱いになった旅券の再発行のために母国トルコに帰れば、たちまち彼もまた逮捕されることになるだろう。
独裁色の強いリーダーがいわゆる共謀罪という“武器”を手にすると、自分に都合のよい政治的環境をつくり出すのはいとも簡単。キャンターが「テロ等準備」に関わったとはとても思えないが、大統領の悪口を言ったばかりに彼は今、窮地に立たされている。
さてこの事件はあくまでトルコで起こったものであって、まさか日本では起こりませんよね?おっと、このもやもやした疑念を抱くこと自体がダメなんでしょうか…。キャンターの記事を書きながら脳裏をよぎったもうひとつの不安。「私は関係ない」と思う時代は、すでに終止符を打っているのかもしれない。 (専門委員)
◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、佐賀県嬉野町生まれ。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。スーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会に6年連続で出場。
おすすめテーマ
2017年06月06日のニュース
特集
スポーツのランキング
-
嗚呼久々に味わう錦織の天然問答「勝ったの?」
-
女子ゴルフの世界ランク予測で誤り 米プロ協会が声明
-
NBA選手に適用された事実上の共謀罪 キャンターの過酷な現実
-
“国策”実ったメダルラッシュ それでも王国復活は時期尚早
-
【松岡修造の目】とことん出た錦織の“弱さ”…解説席で念じ続けた「ラケットは友達」
-
テニス全仏第10日のカード、連覇狙うジョコがティエム迎え撃つ
-
錦織に逆転負けのベルダスコ困惑「言葉にするのが難しい」
-
A・マリー テロ犠牲者に哀悼の意「解決策が見つかれば…」
-
錦織、日本人最多7度目8強!第1セット0―6から立て直す
-
マリーは錦織を警戒「ケイはクレーで非常にいいプレーする」
-
みまひな価値ある銅 完敗で得た確信「中国の壁厚くない」
-
張本、手応えの8強「1、2年あれば勝てないことはない」
-
丹羽、中国の20歳新星にお手上げ「心が折れてしまった」
-
桐生 決勝は10秒11 プラハ国際
-
五郎丸、2季ぶり日本復帰「新たな気持ちで臨みたい」
-
ヤマハ発動機・清宮監督、五郎丸復帰を歓迎「お帰り」
-
大関・高安が始動「まだ呼ばれても反応できない」と苦笑い
-
白鵬、母国の大草原で気分一新「勢いを止めずにいきたい」
-
石浦が1日料理長 特製鍋振る舞い「喜んでいただいて良かった」
-
藍、サントリーに美酒で恩返し!“生涯スポンサー”に感謝
-
アマ新垣、憧れの藍とラウンド「もしかして最後かと思って」
-
日本初の米シニア大会に大物続々 トム・ワトソンら参戦表明
-
松山は45位 不安定さ露呈「いいショットはなかった」
-
さくら今季最高36位 2日目を反省「オーバーパーは残念」
-
川内が遠征先から帰国 6位に反省も「感慨深いものあった」
-
競歩・荒井が世界陸上へ気合い 因縁相手と「ぶつかっていく」
-
ロンドンテロが競歩陣に影響 コース下見中止「安全面を考慮」
-
個人戦は神谷と西片がV 関東高校ゴルフ東京都大会
-
六笠が73で優勝 関東高校ゴルフ神奈川県大会