まっちーの背中は美しい――プリンスアイスワールド撮らされ日記
2017年07月20日 09:00
フィギュアスケート
40年の歴史を誇る「プリンスアイスワールド2017東京公演」。町田樹さんのドンキホーテに魅了された。三幕からなる意欲的なプログラムは第一幕で技を見せ、第二幕でエッジワークの切れを見せ、第三幕で主人公と観客が一緒になって歓喜する。フィギュアスケートならではの、360度から見られることを意識し、場内の東西南北、上段、下段を問わず「この席、当たりだ」と観客たちに思わせ「今度は違う方向からも見てみたい」と渇望させる構成だった。
競技選手時代から彼は罪作りな人。カメラマンをうぬぼれさせてしまうのだ。特にピンスポットを浴びるエキシビションではその傾向が顕著だ。光の受け方が巧みだし、エッジで削られ舞い散る氷粒までも演出されているかのごとく踊る。黒い背景の中で躍動する彼と、キラキラとまとわりつく氷粒。決めポーズでの強い視線。彼が練り上げ作った構図を撮らされていることに気がつかず、自分がうまくなったと錯覚してしまうのだ(ドキッとした人、いるよね)。
実は開演の2時間前に東伏見の駅前を歩く彼とすれ違った。リハーサルを終えたところであろうか、Tシャツにジャージー姿だが歩き方はラフではない。舞台でのバリシニコフや熊川哲也さんの歩き方、バレエしていた。そして振り返って見た背中が美しく決まっていた。カメラマン的な私見だが、現役とそうでない人の差は背中にある。手足を美しく見せるのは背中が起点であるし、ここが決まっていないと技も流れる。電撃的な引退宣言から3年、この背中の美しさを変わらず維持してきたモチベーション。創作活動への飢餓に近い意欲があればこそだ。
終わらないスタンディングオベーションの中、彼の「研究の一貫としての現役復帰」を一瞬だけ願った。ジャッジたちはどう評価するのか。感動を数値化することはできるのか。まあ、それはジャッジのためにやめといてあげましょう。野暮な話だ。
町田樹さんの「Don Quixote Gala 2017:Basil’s Glory」は8月5、6日のPIW日光公演を経て10月7日のJapan Openが最終公演となる。29日には大阪で浅田真央さんの「THE ICE」も始まり忙しくなるけど、日光にも行っちゃおう。思い切り撮らされてやろうかな。 (写真部長)
◆長久保豊(ながくぼ・ゆたか)1962年生まれ。部員たちのICレコーダーの所持を恐れる暴言部長。「スケート場に行きました。探さないで下さい」とメモを残すのがマイブーム。
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