“頭デッカチ”じゃない「プロップ」 名門以外から続々W杯代表候補入り
2019年05月28日 10:00
ラグビー
あれよあれよという間に代表候補になった。右プロップ(PR)木津は、2月のトップリーグ(TL)選抜でフランスの強豪クレルモンと対戦。激しいタックルと突破力で周囲を驚かせた。
この試合は、代表漏れしていた選手にとって、W杯への最後のアピールの場だった。当時社会人1年目のルーキーは「アピールをすればステージアップにつながる」と“試験”に合格して代表候補合宿に初招集。今春の南半球遠征に参加し、W杯メンバーを狙える立場になった。
高校時代からは想像できないほどの出世だ。大分の由布高出身。「1回戦を勝つくらい」のチームのNo・8で、当初は「卒業後は消防士になる」と決めていた。しかし、才能を見込んだ顧問が、天理大の小松節夫監督に売り込んだことで運命が変わった。小松監督は出会いまでの流れを、鮮明に覚えている。
「上半身裸で、筋肉をアピールしたポーズの写真が先生から送られてきたんですよ。普通は映像でしょ。ただ、筋肉質でいい体をしていた。大分へ試合を見に行くと、ボロ負けでも最後までタックルに行っていた。受け答えも丁寧。モノになるだろうと思いました」
かくして、無名のフォワードは奈良県へ。大学1年でPRへ転向。サプリメントやプロテインの種類までこだわる「無類の筋トレ好き」は体の強さを買われてすぐに頭角を現した。トヨタ自動車に進んで1年目からレギュラー。1メートル78、113キロの体で、ベンチプレス180キロを上げる。
◆一生懸命な選手伸びる余地
木津と同じ「3番」の山下も、学校が花園に出たことがない都島工(大阪)の出身だ。左右PRには、日本の高校を出た代表候補が10人いるが、5人が高校で花園の芝を踏んでいない。強豪校出身ばかりのバックスと比べると、その差は歴然だ。
なぜ、活躍できる土壌があるのか。昨年度の大学選手権準優勝、天理大の小松監督は「PRはスクラム、タックルといったボールに触れないプレーが多い。体が強く、一生懸命な選手は伸びる余地がある」と、プレーの特徴を理由に挙げた。
11年W杯日本代表主将の菊谷崇氏は「1・5メートルルールで、高校ではスクラムがそこまで重要視されない。動ける選手が重宝されたりする。強い高校だからPRが強いとはならない」と別の視点を語る。18歳以下は安全を考慮してスクラムは1・5メートル以上は押せないため、サイズや将来性よりも、パスや戦術理解に秀でた選手が試合に出るケースも多い。
しかし、大学以降は、攻撃の起点となるスクラムの重要性が格段に増す。強豪高出身でなくても、少々不器用でも、デカくて、体が強くて、ひたむきな選手が脚光を浴びる番だ。
15年W杯代表でもある1メートル83、118キロの山下は「高校が無名の分、戦術などで頭でっかちになっていない。進んだ環境の教えを吸収しやすいのでは。PRはサイズが不可欠だが、チャンスはどの学校でもある」と京産大、神戸製鋼で成長した経歴を振り返った。
6月3日に日本代表候補の発表があり、60人規模から約40人に絞り込まれる。左PRは稲垣、右PRは具智元がレギュラー候補で、その他は混戦だ。9月発表の最終31人に残る“非エリート”のPRは、はたして誰か。
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