マラソンと競歩の「札幌移転」は正しいのか?東京五輪の先にある次の問題点
2019年10月18日 08:00
五輪
札幌案は確かに「アスリート・ファースト」である。しかし招致段階で“プランB”として挙げていなかった以上、それを認めれば、今後の五輪開催都市は間違いなく大きな問題と直面する。
2024年夏季五輪の開催都市はフランスのパリ。しかし今夏は東京以上に猛暑に見舞われ、7月25日には観測史上最高の42・6度を記録している。東京五輪のマラソンと競歩を暑さゆえに札幌に移すというのであれば、パリもまた「北への移転」を選択肢に入れざるをえない。
ところがパリは日本と違って北への“余白”が少ない。国内最北に近いエリアの都市圏はベルギーの国境と接しているリールだが、パリが記録的猛暑に襲われた7月25日、225キロ離れたこの町も42度を記録していた。最低気温が23度だったところがかすかに涼しさを感じさせる部分だが、では問題となったドーハでの世界選手権同様、暗闇に包まれる夜中にレースを行えるのか?ということになる。国際オリンピック委員会(IOC)は、東京以降の夏季五輪について明確なビジョンを持っているのだろうか…。そこが気になって仕方がない。
2028年夏季五輪を開催するロサンゼルスにとっては、地球温暖化がさらに進行すると考えるともっと深刻だろう。2度目の五輪開催となった1984年の女子マラソンでは、スイスのガブリエラ・アンデルセン(当時39歳)が暑さで倒れかけ、ふらふらになって競技場に入ってきたが、2028年大会では熱中症が全競技共通の問題としてのしかかってくるのは避けられない。
今年の10月に入ってカリフォルニア州北部では電力会社が意図的に電力供給を停止。強風が吹き荒れるという予報が出たためで、ただでさえ山火事が多発しているエリアでは、電柱や電線が倒れてしまうことが“引火”につながるからだ。山火事のリスクを考慮すると、今の段階で五輪のマラソンや競歩を同州南部のロサンゼルスから北部の主要都市に移すという案は現実的ではない。それでも「暑くないところでの開催を!」とIOC側が求めるならば、はるか離れた州外の別の都市で実施するか、もしくは競技そのものを五輪から外すという強硬手段しかなくなってしまう。今回の札幌移転が承認されて実行に移された場合、今後行われる2つの五輪の組織委員会はどう対応すればいいいのか?この問題は「点」ではなく「線」で考える必要がある。
冬季を含めて五輪招致に動く都市は少なくなった。経済的負担の増加、地球温暖化に伴う気候変動、不安定な世界経済の動向、政情不安に伴う治安維持の難しさ…。スポーツの祭典は今、地球温暖化同様にかつて経験したことのない曲がり角に来ている。「夏季」ではなく「春季」の五輪にすべきだとも思っている。
私の五輪マラソン・コース試走は26キロ地点で終わった。体が熱くなり、危険だと感じたので最寄りのコンビニに飛び込んでアイスクリームを2つ食べた。冷凍してあったペットボトルがあったので、それを買って首筋と頭に当てた。店内にあったテーブル席に座りこむこと15分。「選手は本当に大変だな」と感じたのは確かだ。
しかしながら4年に一度、もしかしたら一生に一度の大舞台を、開催都市から離れた場所に持っていかれることに対してすんなりと受け入れられる選手はいないだろう。なので健康面での不安は百も承知の上で私は札幌移転には異議を唱える。理屈は通っているが、それを言うべきでない時期に、言うべきではない人たちが、前もって言うべきだった人たちに対して何も告げないままに、“ちゃぶ台”をひっくり返したような気がしてならない。
◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。NFLスーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会には8年連続で出場。フルマラソンの自己ベストは4時間16分。今年の北九州マラソンは4時間47分で完走。
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