パワーリフティング宇城元、新型コロナで“視界不良”も3度目パラ目指し集中「スイッチ切れないように」
2020年03月17日 05:30
重量挙げ
4月14日から予定されていた最後の東京パラ選考会、W杯ドバイ大会(UAE)は延期の末に中止が決定。3月上旬に延期を知らされた段階で「開催は5月ぐらいか」と考えた宇城は5日間、練習をペースダウンしたという。しかし、11日になってドバイ大会中止の一報と同時に入ってきたのが3月19日からの開催が延期となっていたW杯ボゴタ大会(コロンビア)が4月14日から行われるという情報。選考基準が一部見直された中でパラ切符獲得を確実にする記録を残していない宇城は練習の軌道を再修正し「出ないと、どうしようもない」とボゴタでの巻き返しに備える。
大学4年だった94年7月にバイクの事故で脊髄を損傷。「気付いたら病院にいた」。下半身の障がいと折り合いをつける新生活が始まり、取り組んだのは車いすバスケットボールだった。しかし、左半身のまひもあって思うようにプレーできず「自分の障がいレベルに合っていなかった」と宇城。事故から4年後の98年、パワーリフティングと出会った。
入院時にもらった雑誌で健常者に混じって好記録を残す様子が記事になっていたパラ競技界の第一人者・高橋省吾さんを紹介される機会があり、競技生活を開始。公共のトレーニング施設で1人、筋力トレに打ち込んだ。周りは健常者ばかりで人目を引いた。心の中では抵抗もあったというが「強くなりたいという思いがはるかに勝っていた」と振り返る。
「どんどん記録が伸びて(03年に)健常者の大会で優勝した時は凄くうれしくて」
パラ競技では階級を上げながら日本記録を重ね、世界の頂点を競うパラリンピックに2回出場。パワーリフティングは障がい者の最重量級記録が健常者の世界記録を上回るなど国際大会はレベルが高く、日本勢はこれまでメダル獲得がない。宇城は厳しい戦いを繰り返してきたという自負を胸に「ここまでやってきたからパラリンピックに行けたというプライドみたいなものはありますね」と話す。
前回リオデジャネイロ大会は予選を突破した選手と同じ記録を残しながら体重差で出場を逃した。リオ後は左肘を2度手術。最近も2月のW杯マンチェスター大会(英国)を前に左肩を痛めるなど試練が続く。それでも「手術したことは絶対に後悔したくない。結果で取り戻したい。(左肩負傷も)今出たら終わり。“あの時で良かった”と思えるように」と前向きに捉える。
W杯ドバイ大会延期を聞いて練習をペースダウンした際、競技用のバーベルではなくダンベルを使ったメニューを試すと「前向きな練習ができた」と手応えを感じた。仰向けの姿勢でベンチ台に接している背中でいかに重さを受け止めるか。その微妙な感覚で発見があったという。「せっかく見つけた方法を積み重ねがら、東京でいい結果を出したい」と宇城。新型コロナの感染拡大で最終選考会の開催や出場も見通せない状況だが、東京パラのため調整を続ける。
◆宇城 元(うじろ・はじめ)1973年1月28日生まれ、兵庫県出身の47歳。愛知学院大4年時に事故で車いす生活となり、25歳からパワーリフティングを始めた。下肢障がい者によるパラ競技では旧レギュレーションの60キロ級、67・5キロ級、75キロ級で日本記録を樹立。現行レギュレーションでも80キロ級で186・5キロの日本記録を持つ。13年には健常者の大会で年齢別(40~49歳)の日本記録を残したこともある。会社員を経て14年から順大職員。1メートル74、79キロ。
<東京パラリンピックへの道>標準記録を突破した上で17年から毎年国際パラリンピック委員会指定の大会出場が求められる。20年に各地で行われているW杯も対象だったが、新型コロナの影響による中止もあり、19年までの該当3大会出場に変更。4月23日時点の各階級8位までが出場権を得る。各階級1カ国・地域1人に限定され、複数階級でランク入りする選手もいるため、9位以下に出場権が回ってくることや推薦枠での出場もある。
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